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  • 《ワーケーションコンシェルジュ》をつむぐ 一社)日本ワーケーション協会 古地氏と考えるウェルビーイングな地域づくり

vol. 一社)日本ワーケーション協会 理事
古地 優菜氏

奈良県出身、長崎県諫早市在住。転勤族の妻であり2児の母。転勤に左右されないキャリアを築くため、2013年にクラウドフリーライターとして独立。子どもたちに自分の好きな地域を残したいという思いから、北海道釧路市や長崎県雲仙市などの町おこし事業に参画。日本ワーケーション協会やLINEWORKSアンバサーも務める。国家資格キャリアコンサルタント取得。(同)Hokkaido Design Code役員社員。女性だけのライティング集団「ことのは」副代表。

デジタル推進が加速する中で「ボトムアップの成長戦略」や「転職なき移住」などの言葉と共に、人流を活性化する働き方や関係人口のデザインのあり方が問われています。

市場の奪い合いに疲弊する社会ではなく、“どこに暮らしても働きやすく生きやすい環境を得られる社会”を実現していくために、これから求められる意識・行動のトランスフォームや必要とされるサービスとは何でしょうか。

長崎県で暮らす主任研究員一ノ瀬が、地域のウェルビーイングな未来像を楽しみ、自ら行動を起こしている九州の情熱人たちにお会いし、レポートします。

今回対談させていただいたのは、一社)日本ワーケーション協会の理事であり、長崎県を日本一多様な暮らし方の受入れが上手な県にすることを目的に設立された「長崎・新たな暮らし方会議」の共同理事をされている古地 優菜氏。

ワーケーションが一般化する前から、新しい働き方・生き方・暮らし方のひとつの手段として推進してきた 一社)日本ワーケーション協会。

一社)日本ワーケーション協会(以下、日本ワーケーション協会)は、古地さんを含めた3名の理事と、監事1名の計4名で活動され、そのほか「働き方」や「サードワークプレイス」、「新しい生き方」をテーマに活動されている方々や大学の教授なども顧問やフェローとして関わっている。さらには全国各地の個人・団体・自治体180以上が会員となり活動している。

日本ワーケーション協会の社会的な役割は大きく二つあるという。

ひとつは、「自分が生きやすいと思える働き方をする」という考えを広めること。

古地)ワーケーションって結構「ワーク &(and) バケーション」という言い方をされやすいのですが、私達は「ワーク +(plus) イノベーション」だと思っていて。それはまだワーケーションが一般に広まる以前に活動を始めたときから変わらないのです。ワーケーションとは新しい働き方であり、生き方であり、暮らし方の一つなんです」

9時-17時の定時でいつものオフィスで仕事をするという働き方ではなく、場所や時間を変えたり、時にはふれあう人も変わったりしながら、ひとりひとりが生きやすく働ける社会をつくっていきたい、その思いが協会の真ん中にある。

▽協会の役員で集まられたときのお写真

てもう一つは、ワーケーションによって訪れる地域にもお金が落ちて地域が稼げる仕組みをつくること。

古地)今までの観光って、地域側がいいところを見せようと無理していたところもあったと思うんです。良い面だけを見せて、悪い面を隠しちゃうような。そんな風に、「ただ一見さんがお金を落としてくれたらいいよね」という考え方ではなくて、良い面も悪い面も含めてちゃんとその土地のことを深く知ってもらうことが大切だと考えています。

地域が無理しないこと、むしろ悪い面こそオープンにすることによって、その地域で会いたい人ややりたいことがうまれ、ワーケーションを入り口に関係人口が増えると古地さんは語る。

地域課題が深刻化する中で、地域は域外の方と向き合うスタンスを変えていくべき時を迎えているのかもしれない。

 

「ワーク+イノベーション」の考え方に共感した方々が、ひとつのチームとなりつつ個々が活動しやすい形をつくる『公認ワーケーションコンシェルジュ制度』

具体的に、日本ワーケーション協会はどんな活動をしているのか。

一つは情報発信。ワーケーション自体がまだまだ実践者が少ないため、敷居を下げるべくワーケーションが可能な場所やオススメの施設、必要なものなどを発信している。

次に、自治体・民間企業・個人のマッチング。日本ワーケーション協会の会員は、三者の割合がだいたい三分の一ずつになっている。この会員同士を繋いで新たなビジネスを立ち上げたい企業に対して、それが可能な自治体を紹介することもあれば、自治体同士で送客し合うこともあるという。

そして、独自の「ワーケーションコンシェルジュ」の認定制度。全国各地で活躍する、ワーケーション及びそれに付帯するコンテンツ事業の実施者の中から、企業や団体、自治体などに向けてその知見を活用し、場所を変えて豊かに暮らし働くライフスタイルを共創していける人を、公認ワーケーションコンシェルジュとして認定。ネットワークを築きながら、個々の地域での活動を後押ししている。

古地)全国的な発信は私たちもできるんですけど、地元の人しかわからないディープな情報ってありますよね。そもそも、地域で関係人口を創出するような活動を元々やっていた人ってたくさんいるわけで。微力ですが、私たちが公認させていただくことで、地域のプレイヤーさんの発信する情報に新たな価値が付随したり、ワーケーションを広めながら仕事がしやすくなるように、この認定制度を導入し、思いを同じくする仲間として動いています。

コンシェルジュには三つの分類があり、ワーケーション実践者/​​地域の魅力を訴求できる者/ワーケーションに関する専門知識・技術を有する者、としている。

▽三つの分類で活動されている公認ワーケーションコンシェルジュ/引用:一社)日本ワーケーション協会

多くの人にワーケーションをより身近に感じてもらい、実践者を増やしていこうと古地さんたちはこれらの活動に力を注いでいる。

 

古地さんがワーケーションに取り組む背景には、自身の働きづらさを感じた実体験と、未来を生きる我が子への想いがある。

古地さんがワーケーションの実践者となり、ワーケーションを普及する活動を始めるにはどんな経緯があったのか。

古地さんは、フリーライターとしても9年間活動されている。お話を伺うと、ライターを始めたきっかけや訪れた先での体験が、今の原動力となっていることがみえてきた。

古地)私がウェブのライティングを始めたのは、ちょうどクラウドソーシングという働き方が世の中に出てきた頃でした。私の旦那が転勤族で一つの場所にずっと居られなかったり、当時子どもがまだ未就学児だったりしたこともあって。あと、私自身が鬱を経験していて、通勤電車に乗って毎日同じ場所で9時-17時で働く、みたいな生き方が辛かったんですよね。それでも、働きたいし、人と関わっていたいと思っていたので、ライターの仕事を始めました。

ライターの仕事をしながら時間や場所にとらわれないワークスタイルに関する発信を個人で行っていたところ、日本ワーケーション協会の立ち上げの際に声がかかったのだそう。

現在暮らしている長崎に移住する前は、北海道の釧路市に住んでいた古地さん。釧路市の主な産業は、漁業、炭鉱、そして製紙業。そのどれもが、時代の変化によって縮小を余儀なくされ、危機に瀕している。その光景を目の当たりしたときにも、ワーケーションの可能性を感じたという。

古地)経済的に危ない状況になっていく中でも、その土地で働く人たちはその産業しかないと思っている人が多いんです。ましてや、自分たちにテレワークなんてできる訳ない、とも。でも可能性は意外とあると思うし、私は、いろんな大変なことがあったけど、今の働き方を選んですごく楽しいし、ありがたいことにいくらかちゃんと稼げている。だから、過去の私のように今の働き方を辛いと感じている人の選択肢を増やせたらいいなって思っています。

地域で働く選択肢を失っている人たちに、暮らす地域を変えずに新しい仕事をつくる選択肢としてもワーケーションの普及は意味をもつのかもしれない。

そして、深刻な地域のリアルを目の当たりにした古地さんに浮かんだのは、お子様の未来だという。

古地)そもそも私の家庭は転勤が多いので、子どもは故郷がないんですよね。それなのに、地域が衰退して自分が今まで住んできた土地まで失われちゃったら、どれだけ辛いんだろうと思って。だから、地域を残していくためになんとかしなきゃっていう気持ちが、裏テーマとしてあります。

 

子供が帰りたいな、と思える「血のつながらない親戚」を全国につくりたい。

古地さんは、子供をもつひとりの母親として昨今「親子ワーケーション」の可能性も探っている。

古地)「血の繋がらない親戚を全国に作る」というのも、一つのテーマにしています。例えば、子どもが思春期を迎えた時に、私じゃなくて他の地域に”帰る場所”を作ってあげる。それは別に、安全であれば私が知らない場所でもいいと思うんです。そんな”帰る場所”を残してあげたいなって思いながら、行けるところには子どもも一緒に連れて行ってますね。

実体験をきっかけにした働き方・生き方の変化、自分が過ごした地域への思い、そして母親から子へと託すたくさんの居場所など、古地さんの活動の根っこには強く優しい芯が通っていた。

 

古地さんさんから学ぶウェルビーイングな地域づくりに大切なこと

地域も、人も、「ありのまま」を受け入れて、大事にしていこう。古地さんの言葉からそんなメッセージがずっと発信されているようだった。

良い部分をみせることに無理がきている地域も、場所や時間にとらわれて働き方に苦しむ人も、ワーケーションという手段を通して、自らの新しい選択肢を知る。

ワーケーションには「休暇」というよりも、地域や人が無理をしない幸せな状態にむかうための「変革」の意味合いが大きいのかもしれない。

また、古地さんはワーケーションの推進者であり、地域を思う人をつなげていく輪づくりのプロデューサーでもあると感じた。現在は、日本ワーケーション協会の活動のひとつとして、長崎県を「多様な暮らし方受け入れやすい県No.1にする」ことに主眼をおいたコミュニティ活動を精力的に行っている。

それが『長崎・新たな長崎の暮らし方会議』だ。長崎県が「新しい多様な暮らしができる地域」となるための勉強会の企画・運営や情報発信を行っている。

昨年11月には、長崎県初となる官民参加型のオープンなオンラインコミュニティ「長崎友輪家(読み:ながさきゆーりんちー)」の開設にも携わられ、長崎を愛する人たちが集い、楽しみ、繋がる機会を増やしている古地さん。

古地さんが出向くまちには沢山の輪がつくられ、活力がうまれる。そんなことを感じたインタビューとなった。

 

【記事制作サポート・フォト/森 恭佑氏】

https://note.com/m0r1kyooo3715/n/nf68e06124e11

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PROFILE

一社)日本ワーケーション協会 理事
古地 優菜氏

TEXT BY

moe ichinose
一ノ瀬萌

九州しあわせ共創ラボ 主任研究員

Qインタビュー

− 九州で、社会の第一線で活躍する人から学ぶしあわせのカタチ −

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