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vol.1 九州発!PMS予測&マインドフルネスアプリ
【Poi】開発メンバーインタビュー

九州発。2022年8月にローンチされたマインドフルネスアプリ【Poi】。生理管理機能と瞑想ガイド機能を掛け合わせ、PMS(=女性特有の月経前症候群)からくる気分のゆらぎや自己嫌悪を和らげることで「生きづらさ」に寄り添うためのアプリとなっている。『誰もが「わたしっぽい」日々を過ごせる社会をつくる』をパーパスとする開発メンバーに、今回のアプリリリースにかけた想い。【Poi】のこれまでとこれからについて聞いてみた。

写真中央 【開発】岡澤 隆佑/poi代表・エンジニア

写真右 【監修】山下あきこ/医学博士・神経内科・内科医師

写真左 【監修】葉月ようか/マインドフルネストレーナー

※敬称略

PMS症状による「生きづらさ」に寄り添いたい

-<Poi>の提供するサービスについて教えてください。

岡澤: 大きく分けて3つの機能を実装したアプリです。まずは生理周期のインプットと低気圧情報を掛け合わせて、イライラ期の予報が通知される機能です。自身ではなかなか気づけないイライラ期に対してリマインド通知によって気づきを得ることができます。また、家族や大切なパートナーに対して共有機能を実装することで、わざわざ自分で周りに伝えなくても、周囲がその状態を把握できるようにできるようにしています。

2つめに、そのイライラ期の自分を客観的に見つめてアプローチができるように、そんな時期に合わせたマインドフルネスのプログラムを収録しており、自身で実践でき、習慣化できるようにしました。また、福岡県糸島市の豊かな自然のなかで収音した波の音や焚火の音などリラックス効果が期待できる自然音を収録しています。

3つめに、自身の心の状態を記録して、あとから見直せるジャーナリング機能です。イライラ期や生理期の症状や心の状態を5段階のスタンプで簡単に記録できるようにしていて、あとから見返すことによって、この時期にはこんな心の状態になりそうだから、「瞑想してみよう」とか「ヨガをしてみよう」など能動的に行動できたり、自身の状態を把握できることで症状自体が軽減されることを目指しています。

-既存の生理管理アプリサービスなどと比較すると、心の状態にフォーカスをあてているのが特徴的なサービスですね。

岡澤: はい。もともと私たちはマインドフルネスの社会への浸透による社会課題解決を目的にビジネスをスタートさせており、そのアウトプットとして今回のサービスローンチにたどり着きました。

従来の生理管理アプリに対して、<セックス管理>のような偏見を持たれている方も残念ながら存在する一方で、PMS症状による女性の「心のゆらぎ」に対して生理周期や低気圧情報などのデータを掛け合わせて、アプローチすることに特化した機能はニーズがあると感じています。

そして、「状態を知る」だけではなく、その症状の改善そのものにマインドフルネスが活用できるという観点から、PMS症状に対するアプローチを重視したサービスを提供するに至りました。

-パートナー共有機能なども、他のサービスに実装されている機能ではありますが、意味合いが全く異なってきそうですね

岡澤: はい。私たちのサービスは妊娠可能性などを考慮した妊活をサポートするサービスではなく、パートナーや家族の「心の状態」を把握することで、サービスを利用するユーザーだけではなく、周囲の人々も一緒にPMS症状に向き合うことが目的のサービスとなります。

また、生理管理機能以外のマインドフルネスプログラムやジャーナリング機能(身体の日記)だけでも十分利用できるサービスとなっているので、パートナーが男性の場合でも、一緒にマインドフルネスやジャーナリングを実践してお互いの理解を深めていくことにもつながります。

マインドフルネスは「心の有様」を細かく観察していく習慣

-<Poi>の開発に関して監修をされているお2人がどのような関わり方をしていたのかを教えてください。

岡澤: 山下先生からは、ドクターとしてPMSの諸症状へのマインドフルネスでのアプローチ手法について医学的な見地から監修、アドバイスをいただきました。また、マインドフルネスの具体的な実践プログラムについては、多くの企業にマインドフルネスプログラムを提供されている葉月先生に監修をいただき、収録をしています。

-山下先生は神経内科・内科がご専門ですが、元々マインドフルネスも研究領域だったのですか?

山下:私は元々内科が専門で、長らく生活習慣病やアンチエイジングの領域で臨床を行ってきました。そんな環境の中で、だんだんと「病気を治す」だけではなく、そもそも病気にならないための「健康づくり」の重要性を感じるようになっていました。

そうして病院を退職して、「健康づくり」にシフトをしていこうと様々なことを調べていったんですね。その中で、色々な論文を見ながら抽出されてきた要素のひとつが「マインドフルネス」だったんです。

もちろん、マインドフルネスは「健康づくり」に対してのひとつの要素であって、すべてをマインドフルネスが解決するとは思っていません。

たとえば、栄養管理や運動、適切な睡眠をしっかりと日常の中で習慣化していくこと。そしてアルコールやタバコに対する依存に向き合うことなど様々な「健康づくり」へのアプロ―チがあるなかで、「心の健康」に対して大切な要素が「マインドフルネス」そして「ウェルビーイング」だと感じています。

-今回リリースされるサービスでは、PMSへのアプローチを重視されています。その理由を教えていただけますか?

岡澤: もともと、マインドフルネスの習慣化がどんな社会課題を解決できるのかという観点でサービス開発を進めてきました。先ほど山下先生のお話のなかで「心の健康」に対して大切な要素であるという言葉がありました。

私たちは「心の健康」について問題を持っている生活者のクラスター分析をヒアリングや調査データなどから進めていくなかで、なぜか男性よりも女性のほうが心の健康について問題を抱えやすいという点に着目しました。

そこを深掘りしていくと、女性特有のPMSに伴う気分のゆらぎや、妊娠や出産、子育てなどによって女性のライフサイクルが乱れやすい社会構造になってしまっていることが見えてきました。

そこで、マインドフルネスの習慣化によって解決できる社会課題として「PMSに伴う気分のゆらぎや自己嫌悪などによって自分らしく生きられない人たちに、自己肯定感をもって幸せに生きてもらう」ことを設定して、開発を進めてきました。

-PMS症状に対する今回のサービスやマインドフルネスでのアプローチについて、山下先生から医学的な見地を踏まえたご意見はありますか?

山下:まず、PMSの症状に対して「私は、そろそろメンタル的に不安定な時期に入るんだ」というリマインドによって自身の気づきが得られるというのがひとつのメリットだと思います。

そして、PMS症状が起こるメカニズムについてですが、生理前に女性の身体のなかで何が起こっているかというと、エストロゲンというホルモンがグッと下がってくるんですね。

このエストロゲンというのが、心を安定させるホルモンのセロトニンを底上げしてくれるような役割を持っています。セロトニン自体が心の安定を保つホルモンで、うつ病の方などはこのセロトニンの濃度が下がっていることが分かっています。

そのセロトニンの土台であるエストロゲンが減少してしまうことによって、生理前に感情の起伏が激しくなるような症状が起こってしまうのです。

一方で、マインドフルネスがうつ病や不安の症状に効果があるということは数々の論文で証明されています。

また、MBCTというマインドフルネスをベースにした認知行動療法があります。そのMBCTのPMSへの有用性がイランの大学で研究されており、実際に効果が認められたことが論文にまとめられています。

PMSの際に、どんな考えが沸き起こって、その結果どのような行動を起こしているのか、まさに「心の有様」を細かく観察していく習慣がマインドフルネスによってもたらされ、その結果として症状を軽くしていたり、本人の感じ方そのものを変えているということが研究で示されています。

本来、そういったアプローチって精神科に通院して行動認知療法を受けなければいけなかったのが、このサービスによって近しいことができてしまうというのは素晴らしいことだと思います。

マインドフルネスの裾野を広げていくサービスへ

-一方で葉月先生はこれまで多くの実践的なマインドフルネスプログラムを企業に導入されてきています。現状のマインドフルネスの盛り上がりを見ると、ビジネスパーソンの方々に「効く」プログラムとしての側面も大きいと思っています。そのなかで、PMS症状に対してマインドフルネスでのアプローチを行っていくことについてどう感じられていますか?

葉月:PMS症状に対してマインドフルネスを通して課題を抱えている女性に貢献できることが素晴らしいと感じました。実際に私がプログラムを提供している方々を考えてみると、おっしゃられるようにビジネスパーソンの方々が多い一方で、女性の方々も興味を持たれる方が多いんです。

そういった意味では、本能的に自分自身と向き合う時間の大切さを感じていらっしゃるのかもしれません。私自身もそうだったのですが、特にワーカホリックの方々は自身の心と身体の健康状態が悪化していても、自身と向き合う時間がなければ気づけない。そういった意味で、マインドフルネスを特別なものではなく、日常の習慣にできる今回のサービスについては必要性を感じています。

-まだまだ、マインドフルネスの文化については日常化されていないという認識ですか?

葉月:企業プログラムなどに講師で行くと、まだまだマインドフルネスは認知されていないと痛感します。いつも研修会場に行くと参加されている皆さんにマインドフルネスって知っていますか?ってグーチョキパーで聞くんです。

「グー」は実践したことがある人、「チョキ」は聞いたことはある人、「パー」は聞いたこともない人です。そうすると、大体9割くらいは「パー」なんですね(笑)。まだまだそんな状態です。

そんな「マインドフルネスを全く知らない」という人たちや、PMS症状に困っている人にとって、気軽にマインドフルネスに触れることができる機会になると嬉しいですね。

-一部のビジネスパーソンなどアーリーアダプターの方々だけではなく、このサービスを通じて、よりマインドフルネスの裾野を広げていくことに意義があるのかもしれませんね。

岡澤:裾野を広げる役割として今回の<Poi>アプリが存在するとして、私たちのパーパスを実現していくためにはもっと深度のあるサービスの提供が不可欠だと考えています。

仏教哲学の瞑想に関する考え方には4つのステップがあります。まずは体を観察すること。そうするとだんだんと感情が見えてくる。そこから心がどこから来ているかが理解できてくる。そして最終的に無我の境地にいたるというプロセスです。

歴史の中で残り続けていることからも強固な理論だと感じているのですが、そのなかでも<Poi>のアプリでは最初のステップとして自身の身体からくる不調と向き合うことができる内容になっていると思います。

そこから先のステップに関しては、アプリを通じて関心を持っていただいた皆さんとのゆるいコミュニティを通じてアプローチしていければと思っています。

LINEグループだったりDISCORDのコミュニティを通じて、ゆるい関係性のなかで興味のある人には、より深いマインドフルネスの実践を提供することができればいいですね。

最終的にはオンラインとオフラインの双方でハイブリッド型のサービスを提供していくことを将来的なビジョンとして描いています。

葉月:これは私の実体験でもあるんですけど、やはり、みんな気持ちや感情が外に向きがちだと思うんです。「イラっとしたこと」や「自身の気持ちの高まり」を他人に向けて発露してしまう。そんな時期がありました。

何か対人関係で嫌な思いをしたときに、昔であればその感情をそのまま人にぶつけていました。けれど、今では「私は今、負の感情を抱いている」ということを客観的に気づけて、「どうしてそんな感情を持ったんだろう?」「負の感情の根源は何なんだろう?」と、自身の内側を観察することで、解決するプロセスがマインドフルネスで培われたと思っています。

山下:そういった「気づき」のプロセスを気軽に共有できるようなコミュニティが、このアプリを通じて形成されてくると素敵ですよね。

 

PMS予測&マインドフルネスアプリ<Poi>

poiful.jp

PROFILE

九州発!PMS予測&マインドフルネスアプリ
【Poi】開発メンバーインタビュー

【開発】岡澤 隆佑/poi代表

1995年生まれ、ゆとりが終わる境目の悟り世代。大学時代マインドフルネス研究や、休学し複数のスタートアップでインターン、HRコンサルのデータ分析を経験。卒業後は金融ベンチャーのデータエンジニアを経て独立。佐賀県が実施する2020年度「やわらかBiz提案公募実証事業」に採択され『poi』を開発。禅僧と暮らし、毎朝5時に座禅を行う生活で禅を実践中。週末はサウナで熱波師。

【監修】山下あきこ/医学博士・神経内科・内科医師

1974年佐賀県生まれ。医学博士、神経内科・内科医師。診療や研究を行う中で、高齢になっても自分らしく生きるための方法を模索し続けてきた。2016年に健康習慣を身につけるサービスを提供したいと考え、株式会社マインドフルヘルスを設立。主に健康や自己実現に関するセミナーや研修を企業や一般向けに行い、行動変容を促すスキルと正しい知識を提供している。著書『やせる呼吸』(二見書房)、『こうすれば、夜中に目覚めずぐっすり眠れるー医師が教える、薬に頼らない3つの方法』(共栄書房)

【監修】葉月ようか/マインドフルネストレーナー

大手旅行会社在職中、海外支店(モルディブ支店)赴任を経験する。日本とは全く異なる環境での生活で体調を壊し、そんな中マインドフルネスと出会う。自身もマインドフルネスの恩恵を実感し、もっとたくさんの人達にマインドフルネスを広め、ストレスマネジメントのできる健康な心と身体づくりに貢献したいと考えるようになり、マインドフルネストレーナーとして企業へのプログラム提供など精力的に活動している。著書『食べる瞑想で人生が変わる』(マインドフルライフ文庫)

TEXT BY

yujiro takahashi
高橋佑二郎

九州しあわせ共創ラボ 主任研究員

Qインタビュー

− 九州で、社会の第一線で活躍する人から学ぶしあわせのカタチ −

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