Qラボ 九州しあわせ共創ラボ

  • ホーム
  • Qインタビュー
  • 《ソーシャルディベロッパー》 小笠原氏と考えるウェルビーイングな地域づくり

vol. 一級建築士・ソーシャルデベロッパー
小笠原 太一 氏

2011年に中国に渡り上海万谷建築設計有限公司にて10万平米を超える大型商業施設及び「創意園」と呼ばれるクリエイティブオフィスの設計・開発に携わる。
2016年に帰国後、福岡に移住。インバウンド、シェアリングをキーワードとした建築の企画と設計をする小笠原企画を設立。2018年から自社運営の「長崎坂宿」プロジェクトを開始。

デジタル推進が加速する中で「ボトムアップの成長戦略」や「転職なき移住」などの言葉と共に、人流を活性化する働き方や関係人口のデザインのあり方が問われています。

市場の奪い合いに疲弊する社会ではなく、“どこに暮らしても働きやすく生きやすい環境を得られる社会”を実現していくために、これから求められる意識・行動のトランスフォームや必要とされるサービスとは何でしょうか。

長崎県で暮らす主任研究員一ノ瀬が、地域のウェルビーイングな未来像を楽しみ、自ら行動を起こしている九州の情熱人たちにお会いし、レポートします。

今回インタビューさせていただいたのは、斜面地住宅活用プロジェクト“長崎坂宿”を手掛ける小笠原企画代表の小笠原太一氏。

築70年を超えた木造家屋を、長崎のリアルな暮らしと課題をみつめる空間へと生まれ変わらせていく“長崎坂宿”プロジェクト。

長崎の繁華街、思案橋エリアに程近い路面電車の終点「崇福寺駅」を降り、傾斜がややきつく道幅が狭い一本道を登った静かな山の中腹に、築70年を超える木造長屋群が道路に沿った形で並ぶ。ここで今、未来の地域づくりへの挑戦が始まっている。それが “長崎坂宿”プロジェクトだ。

▽外観(木造長屋群が連なる「長崎坂宿」)

▽客室の一部(長崎坂宿ひとま)

▽客室から見える長崎の日常と斜面地の景色

 

小笠原氏)街の中心部に近いけれど、なんらかの理由でひとけがない“エッジの効いた場所”には、その地域のリアルな暮らしが詰まっていて、一部の外の人(特に海外の人)は、どの地域でも変わり映えしないホテル体験よりも、そういったここにしかない生活体験を面白がるんですよね。ポテンシャルを感じました。

一級建築士であり、長崎坂宿を運営する小笠原氏は、こう語る。

崇福寺駅からの標高約80m、建物でいうと24階建てに高さに位置する眺めのよい長崎坂宿は、地形的な制約によるアクセスの悪さ、住民の高齢化、建物の老朽化による空き家の増加という問題を、旅行者が面白がる空間へと生まれ変わらせたいという小笠原氏の思いから生まれた。

2022年7月現在、一軒貸切型の宿泊施設が4軒、レンタルスペースが1軒、リモートワークに特化した専用ポットが1軒、合計6施設で構成されており、分散型ホテル(アルベルゴ・ディフーゾ)のモデルケースとなることも意識し、開発はこれからも続くという。

▽開発の計画図

学生時代から「自分がつくった空間が、なんらかの社会問題を解決できないか?」と思っていた。

小笠原氏)クライアントのオーダーに応える領域に留まらず、街を歩いて目に飛び込んでくる” もっと、こうあったらいいのに“を形にしてみたかったんです。

取材時、最初に小笠原氏からでてきた言葉だった。

今でこそ、SDGs等から社会課題や地域課題と生活者との距離が縮まっているが、小笠原氏は学生時代から、社会課題をアイデアひとつで大胆に解決し、ビジネスを創出する取組に関心があったという。

小笠原氏)たとえば、地下鉄を走らせる予算がなかったブラジルのクリチバというまちが、地下鉄のように乗降時に時間をとらないシステムを構築してバスを走らせる仕組みとデザインを施したことで、10分の1程度の費用で地下鉄同様の経済効果をもたらしました。そんな事例のように、お金をあまりかけずにアイデアや知恵ひとつで課題を解決し、潤うまちへと変わっていくストーリーにワクワクするんですよね。

小笠原氏も、建築の世界から「別解」を企んでいる。

ゼロからでも、個人でも、少額な資金でも、始められることを知ってほしい。“ソーシャルデベロッパー”として、地域の民間企業等と社会課題を入り口にした空間開発に取り組みたい。

小笠原氏の、社会課題を自分のもつスキルとアイデアで解決したい思いで進められている“長崎坂宿”は、自己資金で始めたものだという。

小笠原氏)長崎に地縁もなく、バックに大きな企業がついているわけでもない中で、ひとりで始めた事業。自分の活動から「誰でも、どんな企業でも、やってみようと思ったらできる」ことを発信できたらと思いますし、ここから一緒に事業をつくっていける仲間を増やせたらいいなと思っています。

大きな開発ではなく、小さなリノベーションで点をうち面にひろげていく事業者を「マイクロデベロッパー」という言い方をしますが、私はそこにひとつ自分の色を加えて、社会課題を起点とした開発に重きをおいた「ソーシャルデベロッパー」として活動していきたいと思っています。

▽開発の様子

小笠原さんの願いは、“長崎坂宿”の存在そのものを多くの人に知っていただくこと以上に、“社会課題を起点とした空間の開発手法”を民間企業などとタックを組みながら広げていくことにある。

小笠原氏)実は、特に「空き家活用」にこだわっているわけではないのです。企業や地域の課題に対して“こんな空間があったらいのではないか”を考え、最適なプロデュースをできたらと思っています。企業がやったことのない社会課題と向き合った空間開発をしていくには、まずは小さくても、少額でも、やってみることが大切だと思いますし、そのノウハウを自分はもっているので、ぜひお声がけいただけると嬉しいです。“長崎坂宿”ではクラウドファンディングにも挑戦したのですが、リターンとして最も人気があったのが「開発手法の企画書」でした。

“長崎坂宿”を自身の思いとアイデアで実現した小笠原氏の表情は、あたたかさと自信にあふれていた。

 

小笠原さんから学ぶウェルビーイングな地域づくりに大切なこと

まちを歩くなかでふと気が付く、衰退と可能性。目の前にある自分の生活や未来にも強く関係している事実とどう向きあえばいいのか、どう行動をすればいいのか、どう面白がれるのか、そんな瞬間をとても大切にし、行動を起こすエネルギーに溢れる小笠原さん。

クライアントオーダーに応えるという領域から、自分起点で社会課題に取り組むという領域にシフトさせ、その意思と行動に対して共創者を増やしていく小笠原さんのアクションにウェルビーイングな地域づくりのヒントがある。

“あったらいいな”に対して、逃げることも諦めることせず、行動を起こした人・地域だけがみえる景色はきっと美しく、そこには輪が広がるように思う。

 

小笠原さんと考える未来のアイデア

まずは社会問題である空き家を、宿泊できる空間へと生まれ変わらせた。この宿泊できる空間やまだ手をつけられていない空間を、新しい課題解決の場へと成長させる。これが小笠原さんの野心だ。

インタビュー後、小笠原氏と九州につくりたい未来についてアイデアミーティングを行った。

 

ひとつめのアイデアは、活用に困っている空間を、必要とされている空間へとトランスフォームすること。生活者が宿泊滞在を必要とするシーンを深く考察しながら、サービス事業者と連携したプログラム付のパッケージを協業で開発できないか。

ふたつめのアイデアは、活用に困っている空間を、民間企業のビジネス創造空間にトランスフォームすること。安価な空き家を、民間企業の社員の研修や新規事業の実験に活用できる場としながら、“地域課題と向き合うビジネスの創出”を協業で進めていくことができないか。

同じ課題意識で繋がり、複数のプロデュース力が掛け算された先で、地域が豊かになるビジネスはうまれていく。

社会課題を入り口に空間をプロデュースされている小笠原氏と未来をつくりたい方、上記アイデアにご興味を持たれた方、是非Qラボまでお問合せください。

※お問合せ・ご感想はQラボのfacebookにダイレクトメッセージをお願いいたします。

PROFILE

一級建築士・ソーシャルデベロッパー
小笠原 太一 氏

TEXT BY

moe ichinose
一ノ瀬萌

九州しあわせ共創ラボ 主任研究員

Qインタビュー

− 九州で、社会の第一線で活躍する人から学ぶしあわせのカタチ −

Qインタビュー

− 九州で、社会の第一線で活躍する人から学ぶしあわせのカタチ −