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【“個の総力戦”で課題を楽しむ】雲仙観光局のウェルビーイングな地域づくり

デジタル推進が加速する中で「ボトムアップの成長戦略」や「転職なき移住」などの言葉と共に、人流を活性化する働き方や関係人口のデザインのあり方が問われています。

市場の奪い合いに疲弊する社会ではなく、“場所を問わず誰もが働きやすく生きやすい環境を得られる社会”を実現していくために、これから求められる意識・行動のトランスフォームや必要とされるサービスとは何でしょうか。

長崎県で暮らす主任研究員一ノ瀬が、地域のウェルビーイングな未来像を楽しみ、自ら行動を起こしている九州の情熱人たちにお会いし、レポートします。

“長崎県雲仙市”の情熱

イノベーション体質は、産官学民が連携すること以上に、産官学民に属する「個人の連鎖」でうまれると北欧のまちづくりの事例で目にするが、まさに“連鎖力”を感じる場にお邪魔した。

長崎県雲仙市。海・山・大地のエネルギーを感じられる直売所や、湯けむり立ち上がる温泉街を抜けた先に、2020年に廃校となった旧雲仙小中学校跡地を活用した交流コミュニティ拠点「雲仙BASE」がある。

新緑に包まれた環境と、学校の記憶や思い出を大切に残している空間が印象的な雲仙BASEの体育館に、この日約50名の大人たちが集まり、未来の雲仙について語り合っていた。

開かれていたのは、一社)雲仙観光局が主催している「合同ワーキング」。

同局がビジョンとして掲げる「訪れる人も住む人も働く人も幸せを感じられる持続可能な地域の実現」を軸に、課題を設定し解決に向かうアイデアを”雲仙の未来を思う仲間たち“で出し合うこのワーキングは、今回(2022年6月)実施されたもので、実に24回目になるという。

この日も、地場事業者、域外事業者、雲仙市民、雲仙を訪れた方が、「人材確保」「温泉深堀」「エコな取り組み」「E-bike導入」の4テーマに分かれて、それぞれの知識と発想をシェアしながら、熱い対話を交わしていた。ここで協議された内容が、一歩ずつ、着実に未来の雲仙をつくっていくことになる。

 

この合同ワーキングはどのような思いでスタートしたものなのか、雲仙市が目指す未来の姿とはなにか、一社)雲仙観光局の瀬戸様、白濵様、そして雲仙市観光物産課の黒原様にお話を伺った。

▼(左から)雲仙観光局の瀬戸様、白濵様、雲仙市観光物産課の黒原様

雲仙観光局が大事にする3つの意識は、「個の総力戦。」「途中も見せる。」「仲間を集める。」なにより、自分たちが楽しむこと。

10年後に向けた具体的なアクションが明記されている雲仙市観光戦略は、約2年前に策定されている。観光戦略の表紙には「全てのステークホルダーが一丸となり、覚悟をもって変化に挑戦する」と記してあり、ページをすすめると、雲仙市が大事にする3つの意識として「個の総力戦。」「途中も見せる。」「仲間を集める。」という言葉がシンプルに、堂々と掲げてある。

まずは、この観光戦略と3つの意識に込めた思いを伺った。

瀬戸氏)雲仙市観光戦略は雲仙市内外の方々と沢山の意見交換を重ね、策定したものです。いわゆる市の総合計画のような一方向のものとは少し違い、“みんなでつくり動いていくための観光まちづくり戦略”として策定しています。

3つの意識は、雲仙市の10年後を考えたときに、特定のメンバーだけでは取組の持続が難しく、ひとりひとりが情熱をもって取り組まなければ、地域が愛されないという思いからひとつめを「個の総力戦」に。そして、雲仙市が抱えている課題を恥ずかしがらずに詳らかにオープンにすることで、興味を持っていただき「個」になってくれる仲間を増やしていきたいという思いから「途中を見せる。」「仲間を集める。」も入れています。

 観光戦略や合同ワーキングに興味をもっていただいた方に『課題を買っていただけたら』と思っています。課題を楽しみながら、ワイワイガヤガヤと意見を出し合い進んでいけたらと思っています。

▼雲仙市観光戦略(一部紹介)

合同ワーキングや雲仙BASEの運営を推進されている黒原氏、白濵氏も、雲仙の取組に興味をもち、参加してみたメンバーのひとりだったという。

“この地域に骨を埋めてもいい”と思えるほど、関係したい地域だった。

黒原氏)私は今年3月まで福岡県の民間企業に勤め、地域の仕事をしていましたが、複数の地域と関わるのではなく、ひとつの地域としっかり向き合ってみたらどうなるのかな?と日々思っていました。そんな中で立場を超えて雲仙の未来をつくろうとしている方々に惹かれて「この人たちとだったら」と思ったことが決め手となり、この雲仙の地に骨を埋める覚悟で、ここに来ました。

氏)私は雲仙市出身で、ワーキングの取り組みにお誘いを受けて参加してみたのがきっかけです。生まれ育ったまちの光景が、幼い頃の状態から変わってきていることへの危惧をもっていたので、これからは自分も雲仙の魅力をつくる担い手になれたらという思いで仲間に加わり、活動しています。

出身も、背景も異なるひとりひとりが「雲仙のまちや人への情熱」で集まっている様子が、お二人の言葉から垣間見える。

覚悟と決意をもって「ありたい姿」を掲げ、試行錯誤を繰り返す。

雲仙市観光戦略には、雲仙の現在地と達成目標の数字が包み隠さず、堂々と並ぶ。そして、観光戦略のコンセプトにも「5泊6日したい滞在型リゾート」と、ここにも明確な数字が現れる。

瀬戸氏)今が苦しい状況なので、嘘をつかない数字を武器にしないと、と思っています。目指す数字と、現在の数字、何が不足しているのか、どこを強化したいか、計画と進捗をオープンにすることによって、興味をもった方が行動を起こしてくれるきっかけに繋がるといいなと。

―「5泊6日」にこだわった背景は?

瀬戸氏)単純明快にハワイや北海道がそのイメージを持たれているように「長期だったら雲仙」を目指したいからです。今はそうでないことを理解したうえで、5泊6日を掲げることで、そのために足りない体験等がみえてくると思っています。世界の例を研究しながら、仲間たちと合同ワーキングで話し合っています。

黒原氏)他の地域から鼻で笑われてしまうくらい、5泊6日は夢のような数字ではありますが、これは決意だとも思っています。ふるさとよりも大事に思ってくれる方を増やして何度も来たくなるまちになっていく、多様な過ごし方ができるまちになるという決意。たとえば、2泊を年間で3回という形での5泊6日でまずは十分だとも思っています。関係したくなるまち、長期で選ばれるまちになるため、これから小浜温泉・島原半島全域での過ごし方を提案できるよう、半島の連携も進めていきたいと思っています。

「できるかできないか」ではなく「チャレンジしてみるかしないか」

先を見通しにくい時代だからこそ、ありたい姿を潔く掲げて動く雲仙観光局の皆様の姿は、地域で暮らす方々の背中を押す大きな意味をもつように思う。

雲仙観光局さまに学ぶ、ウェルビーイングな地域づくりに大切なこ

合同ワーキングの様子を拝見させていただく中で最も印象的だったのは、瀬戸様の溌剌とした笑顔と爽快なワーキングの始まり方。

冒頭で触れた“3つの意識”をはじめとした雲仙観光局の根底にある思いや考えを、体育館に集まったワーキング参加者が、全員で、まるで校訓のように声を出して共有する時間が設けられている。「雲仙の未来をつくる一員なんだ」という小さな緊張と「雲仙を思う仲間が集まっている」という大きな高揚をその空間に感じた。

地域課題が深刻化する中、「雲仙のためになりたい」「雲仙のために動く誰かのためになりたい」そんな思いの連鎖をデザインするリーダーシップと、「理想は○○です」「今○○に困っています」ということを隠さない謙虚で誠実な姿勢には学ぶべきものが多い。

雲仙観光戦略に掲げているゴールに到達することが大切であることには間違いないが、ゴールに到達するプロセスにこそ、未来をつくるエネルギーの答えがあるように思う。

(一社)雲仙観光局:https://unzen-dmo.com/

雲仙ポータル:https://www.unzen-portal.jp/

雲仙BASE:https://www.unzen.org/unzen_base/

TEXT BY

moe ichinose
一ノ瀬萌

九州しあわせ共創ラボ 主任研究員

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