九州には、情熱を持つ人たちが沢山いる。そんな情熱に迫るQラボの連載。第5弾は、持続可能な木材づくりに取り組み続けてきた中村展章さん。SDGsという言葉が生まれるより、十数年も前から問題に取り組み続けてきた経緯や想いについて取材してきました。(撮影:今林大造・インタビュー:中村圭)
圭:持続可能な木材づくり。この取り組みを始められたキッカケについて教えてください。
中村:以前の木材業界は、海外から木材を買い進める過程において違法伐採材を知らず知らずのうちに輸入してしまうことがありました。このままでは悪意がない善意の第三者が、違法行為に加担してしまう。「これはまずい」と思い、それをどうしたら解決できるのか考えました。
事業なので法律を犯していなければ良いという考え方もあるのですが、まずもって、これは長く続かないと感じていました。今は確保できても、将来、こんなやり方では木材は安定調達できないと気づきはじめました。一策として持続的な木材調達のために自給率が低迷していた国内の森林をどうにか活用していく仕組みができないかと思い始めました。
圭:その取り組みの一つがFSC®認証ですよね?
中村:そうですね。FSC®認証は森林管理のための10の原則と基準があります。FSCで定められた規格に基づいて、それに適合した場合に認証されるのです。森林として適合しているか、また、生物多様性や人権配慮などの項目があって全部適合していると適切な森林と認証されます。これを、FM認証といいます。その後、流通や工場が入ってくる中で、適切に工場が管理されているか、各企業で認証を受けていきます。それがCOC認証です。私たちは工場としてCOC認証を受けて16年目(2021年現在)になります。
*自社ライセンスコード「FSC®C022549」
圭:当時は認証を受けているところは珍しかったのでしょうか?
中村:九州では、16年も前に認証を受けているところは九州林産さんと諸塚村さんと弊社以外にはなかったですね。早い方だったと思います。私たちは、九州電力さんの森林を長く仕入れ先としてご協力いただいています。それと宮崎県の諸塚村さん、九州ではその二つの森林から供給いただいています。
このサプライチェーンにおいて、環境的、社会的、経済的に適切に管理された森林の産物であるということでFSCⓇ認証をいただいています。その証として、FSCのロゴマークを商品に付けることができます。この認証が広く一般の人に伝わって、選ばれるようになれば適切な森林管理にもとづいた健全な木材消費が進むのです。世界の森林は少なくなってきています。それを適切に管理していく資源として使っていくことが大きな課題になっています。日本において、90年代後半は自給率が20パーセント前後でした。日本の森林管理がバランスを崩してしまってあまり良い形では管理されていなかったので、それをどうにか見直してやっていこうということで動き始めました。
持続可能性はなかなか理解されない時代だった
圭:食だと地産地消ってよく聞くのですが、木だと珍しいのでしょうか?
中村:木育ってご存知ですか?食育の木材版です。人間の営みを続けていくには、ちゃんと森林を守っていかないと活動ができません。特に、都市部は自然が遠い話になってしまっていますから。人間と森林が繋がりを持つことをやっていかないと日々の生活ができません。森林が健康であるからこそ生物多様性や持続可能性がちゃんと担保できますよ、ということをやっていく必要があるのではと自分の中で考えていました。ただ当時は、持続可能性を看板にできませんでした。まず理解されませんでした。
事業を進めていく中で共感してくれる人たちが1人ふたりと増えていけばよいかなと考えていました。そんな中、スターバックスさんからお声がけしていただくなど、先行的な事例が次々とつながっていきました。それで自分たちは間違ったことをしてない、日本ではまだまだ理解してもらえないけど、外国の人には刺さるのだと。めぐり逢いの中で自分も勇気づけられたし、進めていく中で、これはやっていくべきことと確信できました。ようやく活動が見える化できたのが、ここ2、3年。SDGsという言葉が出てきて持続可能性を伝えるにはちゃんとした裏付けが必要ですよね、と言えるようになってきました。SDGsのおかげで、みんなが一緒の方向を向きやすくなった気がします。
SDGsがなかった時代から取り組めた理由
圭:僕もSDGsが広がってきたのはここ2、3年と思っているのですが、その基準ですでに2006年から取り組まれている。この16年にも渡って続けられた情熱はどこにあるのでしょうか?
中村:私の中では揺らぐものはなかったです。これは自分の中では進めなくてはいけないものだった。周りは中村がやっていることを不思議に思っていたと思いますよ。誰のために、なんのためにやっているのかなと。私は次の時代、そういう根本的なことが評価される時代になるのではないかと当時から感じていました。見た目とか、便利だからとかだけでは世の中が整わなくなる。人口爆発とか、資源の奪い合いが自分の目の前で起きていたので、自分たちも計画的に物事を見ていかないと、このままでは成り立たなくなると。自分の中では結論が出ていました。計画的に木材を使っていくことをするべきじゃないかと。「自然のものをガンガン使いました。使い切りました。さて、どうしましょう。」よりも、『森林の管理を行って、使用にあたっては計画性を心掛けながら経済を回していきましょうよ』と。
これからの時代は、そのようなことが評価されるのではないか。そういうものを企業も欲しがる時代になるのではないかと考えていました。もちろんその先のカスタマーも評価しないと企業も動かないでしょうが、結果的にはそういうものが良しとされる時代にしないと、豊かな生活もできなくなるのではないかなと。なくなって気づくのか、なくなる前に気づくのかの差ではないかと。その中に迷いはありませんでした。16年間の中で人からどういう風に見られようが、16年前からそう感じていたので…。
結局、他人事なんですかね。森林のことや自然のことを都会では考える必要がない。でもこれまでと同じ暮らしを続けていくためには、CO2の吸収や防災など森林が持つ公益的な側面を大事にしていかないと都市部の活動も続けられないですよとSDGsが明確にしてくれたと思います。それを言えるようになってきたのも大きいと思います。
一体どうしたら、この美しい森林を次の世代に受け継ぐことが出来るのか?それには、林産地である地方と大消費地である都市との協力関係の構築が欠かせません。林産地は、森林を放置しておくのではなく、その森林から伐採された木材資源をうまく使いこなしながら、森林を健康な状態に整備する。そして、木材の年生により適宜利活用できる方法を提案しながら、木材資源の利活用を素材から製品、そしてバイオマス燃料まで無駄なく使いきるサイクルを作り出す。そうして生み出された製品であるSKINWOODⓇを、背景に共感していただいた都市の生活者に使っていただき、森林保全の流れを一緒に創り出せたらいいなと日々感じています。
自然物を工業製品のように提供するSKINWOODⓇ
圭:SKINWOODⓇをくわしく教えてもらっても良いですか?
中村:厚みのある無垢の板ばかりでは木製品は作りづらいです。特に内装材として利用する場合に、実は施工する場所が真っすぐであるとは限らないので、曲面加工が可能となる変形追随性の高い薄い木材の突板を使うことによって意匠性が格段に向上します。例えば、突板は壁紙のように使えたり、デザイン性を高めてかっこよさを増したり、機能性の面では薄い状態にして加工すると無垢材では不可能な表情や安定性を持たせることができます。薄くして加工することで安定性が保てるとか、軽くできるとか、物をつくるうえで突板があった方が便利ですよね。それらの特長や特性を活かして各地の木材を使いやすい材料にしてお使いいただけます。そこに特化して行こうとの思いで、SKINWOODⓇを開発してきました。
圭:技術的に難しいことなんですか?
中村:大きな機械で木の塊を薄くしていきます。長さ4Mある大きなナイフで、カンナみたいな感じで薄くします。迫力がすごいですよ。長さ4Mのナイフで紙一枚くらいの厚さに仕上げるようにコントロールしていきます。個体差、温度・湿度もいろいろ条件が違う中で一定にしていくすごい技術です。
あと、SKINWOODⓇを自然な色見になるように意匠性を保つことが難しいですね。色見を整えることで、例えば大きなホールを作る時に木目や色見がバラバラだと奇麗に仕上がりませんが、木目や色見が安定しているSKINWOODⓇだと叶えてくれます。
佐賀県庁の改修工事でもあった事例ですが、約3年前に施工した一部を改修することになり、3年前の木目に近いものを提供できました。3年経過しても天然素材を再現できるところがSKINWOODⓇの特徴のひとつです。それによって私たちも安心して納品でき、天然物を工業製品のように提供できます。SKINWOODⓇは結構奥深いですよ。工業製品でもロット違いを合わせるのは大変ですが、それを天然の木でやることになるとさらに大変です。今までは天然物だからしょうがないですよ。一点ものですよと。でもそれでは、今の世の中通用しなくなってきたように感じます。
更に特徴のひとつですが、施主・設計・施工業者・材料納品業者が事前に木目や色見の最終的なイメージを共有でき、すべての関係者が安心して工事に取り組めます。SKINWOODⓇは持続可能な人工林から、天然物の突き板と同じくらいの意匠性を持たせて使っていけるというパフォーマンスを持っています。「突き板でしょ?」と言われても、これは「SKINWOODⓇなんですよ。」と呼ぶようにしています。植えて、育てて、伐採して、使ってという連続性がある仕組みがSKINWOODⓇなんです。
50年後の世界を見据えて木材を提供する
圭:最後の質問なのですが、私たち九州博報堂は「地域の情熱たちと未来をつくる」という言葉を会社で掲げているのですが、中村さんはこの場所からどんな未来を作りたいと考えていますか?
中村:海外で安く作られたものや海外から買ってきたものより、持続可能な木材を使いたいとみんなが思えるようにしていきたいです。少々価格が高くても環境に配慮している製品や説得力のあるサービスが受け入れられる時代になってきています。今は少しの変化でも、50年後には大きく変わっていくような流れを作りたいと思っています。
SDGsという言葉がなかった時代から、課題に取り組んできた。これからも、持続可能な木材を普及させるために。地域の情熱、中村社長の挑戦は続く。