九州には情熱を持つ人たちが沢山いる。そんな情熱に迫るQラボの連載。第三弾は、Restaurant Solaオーナーシェフの吉武広樹さんです。フランス・パリでミシュラン一つ星を獲得したシェフが自身の次なるお店を構えたのは、ベイサイドプレイス博多。パリでの活躍後、次なる活躍の場所として東京を選ぶことがセオリーと言われる中この福岡の港にお店を開いた理由、そして吉武さんが今取り組まれていることについてお話を伺いました。 (撮影:今林大造・インタビュー:中村圭)
中村:目の前に博多湾が広がる素敵な場所にレストランがありますね。この場所にお店を作った理由について教えていただけますか?
吉武:最初は東京で探してたんです。これまではパリでレストランをやったら、次は東京に出店するのがセオリーでした。東京出店を飲食の先輩に相談した所「セオリーよりも自分らしい場所で 探すといい」とアドバイスを受けました。そこからいろんなところを見て、福岡のこの場所に初めて訪れたときピンと来たんです。
中村:ピンときた理由について教えていただいてよろしいですか?
吉武:Solaのあるこの場所は韓国や対馬へ向かう船が出る港でもあります。博多湾はアジアの 国々とも近く、東シナ海に面しています。フランス時代から水産資源の問題に取り組んできた中 で、いろんな国々の方たちとこの問題に取り組んでいきたいと考えていました。この場所は自分のストーリーにとても合っていると感じました。
フランス時代より取り組んできた水産資源の問題
中村:水産資源の問題についても詳しくお聞かせいただいてもよろしいですか?
吉武:年々漁獲量が減っている魚種が沢山あります。例えばマグロやヤリイカやサンマなどです。水産資源の多くは乱獲によって減っています。資源を未来に少しでも多く残すためには、ある種の制限をかけるなど様々なことを行う必要があります。しかし、実際には見えない海の中の状況についてみんなが意識を持つというのはなかなか難しい事です。そこで志を共にする全国のシェフと連携してこの問題に取り組んでいます。
中村:取り組みとは食材なども、水産資源の観点から選ぶということですか?
吉武:そうです。例えばブルーシーフードガイドというものがあります。資源が少ない海産物ではなく、豊富にあるものを選ぶようにしていきましょうというガイドです。それを読めば日本近海には今どの海産物が多くいるかというのがわかります。しかし、水産資源の状況は毎年変わっていきますし、地域によってその状況は異なります。この辺りでは豊富に水揚げされるけど、日本全体で見たら少ないなど様々な例が挙げられると思います。なかなか難しいことなんですが、いろいろな方と情報を共有しながら食材を選んでいます。
また、近年日本海側の水産資源が減少している一方で太平洋側は増えているという状況があります。その資源が回復した理由の一つには多くの国々が協力し合い漁獲制限を設けて、産卵期の魚を捕らない、子供の魚は獲らないなど厳しく制限しているからです。より多くのシェフと資源問題を共有し、この問題に取り組んでいきたいと考えています。こうした意味でも、この立地はアジアに近く、国際色豊かな福岡の街は自分に適した場所だと思います。
距離感が近い地域だからこそ出来ることがある
中村:生産者との距離を大事にしているお話もお聞きしています。
吉武:うちは店内で使用する箸や器、ステーキナイフなどなんでも自分達でデザインします。これが東京など都心だと構想から製品化まで1つ進めるのにとても時間がかかります。打ち合わせ に毎回確認に出向くのは大変です。その点、地方は距離が近く、思い立ったらすぐ打ち合わせに行くことができるのも利点の一つです。食材に関しても生産者の方との距離も近く畑まで行って直接買うこともできます。これが東京のような大都市だと畑まで片道1時間~2時間以上要し現実的ではありません。
届けることで新しい料理の形をつくりたい
中村:コロナは飲食店にとって大きな問題だったと思います。コロナ以前と以降で変わったこと はありますか?
吉武:大きく変わった事と言えば自分自身のレストランに対するマインドが変わりました。以前 はレストランでの表現が全てでした。とにかく自分たちが頑張っていればお客様には来てもらえると思っていました。しかし、今回のコロナで店舗で営業ができない状況になりお客様に来ても らえない状況に直面したことで、料理を届けることを考えざるを得なくなりました。
オープン当初よりテイクアウトはやりたいと思っていたのですが、仕込みや営業などの日々の忙しさのあまり手をつけられていませんでした。緊急事態宣言が出て営業を自粛することになり、多 少なりとも考える時間が確保できました。そこでSolaが届けるとしたら、どういうものを届けるだろうかとスタッフみんなで考えていました。それが二段重のおせちのようなオードブルセットです。実際に商品をお客様にお届けしたところ、多くのお客様にとても喜んでもらえたんです。
お届けしたお客様の中には「食べるのは好きだけど、足が悪くて家を出れない。でもこうやって届けていただけてすごい楽しい時間でした」とおっしゃってくださる方もいて、「こういう飲食 の形もあるんだ」とすごくハッとさせられました。今回のコロナに関しても、こんな状況でもみ んな1日3食食べることは変わっていない。レストランに来れないだけで、自分たちが届ければ、 「食」って変わってないんだよなと。
中村:ありがとうございます。最後に、九州博報堂は「地域の情熱たちと、未来をつくる」という目標を掲げているので すが、吉武さんが、この場所から作っていきたい未来について教えてください。
吉武:地に足つけて、「食」をどこまで届けられるか挑戦してみたいと思っています。今までは世界中にお店を展開することが、料理人としてのひとつの目標でした。世界的に有名なシェフは自分の名前がついたレストランを世界中に展開しています。でも、これからの時代は違うアプローチ もあるのかなとも思っています。このお店を繁盛させるのはもちろん、日本全国からアジア各国、そこから全世界まで僕たちの料理を届けられればと考えています。
水産資源の問題を考えながら、人が喜ぶメニューを考え続ける吉武シェフ。世界中のシェフと連携しながら、Restaurant Solaの「食」への挑戦は、続く。