九州には、情熱を持つ人たちが沢山いる。そんな情熱に迫るQラボの連載。第二弾は、グラファネグラス協会の関口和良さんです。山鹿の街を盛り上げようと、仲間で試行錯誤した関口さんたちが辿り着いたのは温泉で洗うジーンズ。新しい地域産品を生み出した想いや、今取り組んでいることについてお話を伺いました。(撮影:今林大造・インタビュー:中村圭)
中村:温泉でジーンズを洗う。あらためてその様子を見させていただいて衝撃でした。どういう経緯で、このようなジーンズが生まれたんですか?
関口:ありがとうございます。この温泉ジーンズがなんで始まったかというと、最初は仲間と山鹿のために何かできないかって考えてたところ、ジーンズの縫製工場にご縁いただいたんです。
「よしオリジナルのジーンズを作って売ろうか」なんて話を最初はしてたんですが、「それだけじゃ面白くないな」と。山鹿でやるんだから、山鹿の特色をどう出すか考えなきゃダメだろうとなったんです。
それで、いろいろ調べてるうちに、ジーンズのノリ落としをする洗い加工というものがあると知りました。その加工は、アルカリ性の鉱物を入れたぬるま湯でつけると良いということが分かったんです。「それって山鹿の温泉の質と一緒じゃないか!」と仲間で盛り上がりました。
一緒にやってた仲間の中に、温泉宿の清流荘の社長がいたので、宿の温泉で洗ったらいいんじゃないかと閃いた。こうして、山鹿の温泉ジーンズは生まれたんです。
(ジーンズを洗いに使ってる温泉がついてる客室でお話を伺った)
仲間と街おこしを考えて温泉ジーンズはできた
中村:仲間で集まってというお話があったのですが、どういう経緯で集まってた仲間なんですか?
関口:元々、この温泉ジーンズの前にも、街おこしで面白いことをやりたいなという人間で集まってたんです。小さな街なんで、ほとんどみんな知り合いみたいなもんで。だから気の合う仲間で始めたって感じですね。
この温泉ジーンズも、仲間との話し合いでどんどん発展させていってます。「温泉で洗うだけじゃなくて、特色を入れたいね」「旅行だとクーポンがある。じゃあジーンズを履いている人に、特典が得られるような仕組みを構築しようか」なんて。それで、ジーンズの後ろのパッチを見せたら、割引があったり、一品がついてきたりしたら良いよねという話になりました。
これを、みんなに話したら、飲食店とか雑貨屋さん、旅館とか企業さんなんかが特典をつけてくださって、25点もの特典が集まったんです。これはもっともっと増やしていきたいなと思っています。
中村:すごいですね。みなさん、元々ジーンズには詳しかったんですか?
関口:いや、それが全然なんです。今でこそ毎日、このジーンズ履いてますけど、始める前までは、ほぼほぼジーンズなんて履いてなかったんです。一緒に始めた旅館の社長にしろ畳屋にしろ、あまりジーンズは似合わない職業ですから。履いてなかったし、詳しくもなかった。でも、このジーンズを売っていくうちに、逆にジーンズ好きのお客様にアドバイスもらったり、日々勉強させていただいてます。
この街にジーンズで雇用を増やしたい
中村:この温泉ジーンズには、すぐに辿り着いたんですか?
関口:いえ。これまでも山鹿を盛り上げるために、いろいろ仲間で試してはいたんです。でも、今まではイベントをやっても1回きりのものとかでした。しかも年1回とかしかできなくて。
この山鹿ジーンズは、そうでなくて、持続性のある継続事業としてやっていきたいんです。雇用の創出までを、目標にしています。今は1人で店番してますけど、何人がスタッフがいてもいいとも思いますし。山鹿は若い人が学校出ても働くところがないので出ていっちゃうんですよ。なので、1人でも2人でも、雇用を増やせればなと思ってます。
中村:やっぱり街への想いは並々ならぬものがあるんですか?
関口:そうですね。クーポンの施策なんかも、街の皆さんが、この街のことを思ってるので、積極的に「何したらいいかな?」と協力してくださるんです。皆さん温泉ジーンズを知ってくださってますよね。向こうの方から「なんか協力できんか?」と言ってきてくださる。
中村:山鹿の方たちの人柄が伝わってくるお話ですね。
関口:昔からの宿場町ですし、おもてなしの心を持った先輩方が多いですよね。いろいろ勉強させてもらってますし、協力してもらってます。
80歳過ぎのおじいさんも買ってくれる温泉ジーンズ
中村:今、地方が注目されている中で、特色を出せなくてうまくいってない自治体もあると思うんです。そんな自治体にアドバイスなどありますか?
関口:今回、民間だけで完結できたのは大きいと思うんです。いろんな人が関わりすぎてると、温泉でジーンズなんて、できなかったと思う。そこを仲間たちの勢いでやっちゃってる。清流荘の社長とも最初は「大浴場でジーンズを洗おう」なんて話をしてたんだけれども、やってみたら、大浴場で洗うと逆に片付けが大変なことが分かった。なので、この高い部屋の部屋付き温泉でやることになったんです。だから、そういう話ができるメンバーがいるっていうのが大きいんですよ。
中村:いろいろ試行錯誤しながら生み出されてるんですね。
関口:そうなんです。最初は「何やってるの?」って言われてたんですよ。でもメディアさんに取り上げられたり、続けてやっているうちに、地域の方々にも認知されてきました。
こないだなんか、80歳をすぎたおじいさんとおばあさんが、2本ジーンズを買ってくれたんです。「これが最後のジーンズだ」なんて言って。もちろん僕は「最後なんて言わずに、また買いにきてください!」と言ったんですが(笑)
それで、なんでおじいさんたちがジーンズを欲しくなったかというと、地域のカラオケ会の時に、誰かがうちのジーンズを履いてたそうなんですね。「これ温泉のジーンズなんだよ」って。それで、欲しくなって買いにきたらしいんですね。おじいさんとおばあさんペアで温泉ジーンズが欲しいと。こっちが想定してない方向にジーンズが勝手に動いてくれてる感じがするんです。
履いてる人が増えるほど山鹿の宣伝になる
中村:さっきこの宿のおかみさんがおっしゃってたのがジーンズが元で泊まりに来ることもあるみたいですね。ジーンズ洗ってる場所なんでしょって。
関口:そうなんです。仲間がジーンズを洗う場所を提供してくれてるのは、ありがたいんですけど、最初はマイナスになったら、どうしようって心配はあったんです。「洗い場を客に提供するのかって言われたらどうしようとか。」でも、結構、おっしゃるように泊まりたいと来てくださったりとか。あとは、自分で洗いたいって方もいて、そんなプランを作ってくれって声もあったり、どうやって進めようかなというのは今も試行錯誤中です。
最初は、みんなでお小遣いを出し合って始めた事業なんで。そっから始めて2年もったそしてある程度認知されて、こっからどう展開しようか。雇用の創出まで行けたらなと考えてます。
中村:最後に、僕たち九州博報堂は、「地域の情熱たちと、未来をつくる。」という目標を掲げています。関口さんは、ここ山鹿からどんな未来をつくりたいですか?
関口:街おこしを考えた始めたきっかけは、街が寂しかったんですよね。若い子は出ていっちゃうし。なんかできんかなとは、みんなが思っていて。この温泉ジーンズは、履いてこの街を回ってもらおうというコンセプトです。だから、山鹿のいろんな地域に協力店などを作って、もっと、この地域を盛り上げたいです。
そして、山鹿に限らず日本中のいろんな場所で履いてもらって、このジーンズって山鹿って場所の温泉で洗ったらしいよ。とジーンズが一人歩きして、この山鹿という地域に興味を持ってもらう人が1人でも増えれば嬉しいなと。そのために、とりあえず一歩一歩やっていきたいと思っています。
街を愛し、街を盛り上げるためにと試行錯誤した結果生まれた「温泉ジーンズ」。もっともっと、このジーンズを広げ、山鹿に人を呼ぶために。関口さんと仲間たちの挑戦は、続く。