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vol.8
福岡コーヒーカルチャー

世界一の焙煎士&バリスタも輩出 

福岡コーヒーカルチャーがアツい理由を深掘りしてみた

街を歩けばニューオープンのコーヒーショップを見かけ、中を覗けばスマホ片手にドリンクを楽しむ人たちでいっぱい。開店前から長蛇の列ができる姿も珍しくないほど、福岡は今、空前のコーヒーショップブームです。純喫茶からチェーン店、独立系の店までが、コンパクトな街にひしめきあい、焙煎や抽出に徹底的にこだわる店から、グッズ販売で人気の店まで、その個性もさまざま。国内のみならず、お隣の韓国や中国のメディアで紹介されるなど、話題となっています。

街の胎動が聞こえ、新しいものが同時多発的に生まれる時、その裏側には脈々と流れ伝わってきた“歴史”があるはず。今回の記事では福岡に「スターバックス コーヒー(以後、略称スタバ)」が上陸した2000年を起点に、福岡のコーヒーシーンの隆盛をたどってみたいと思います。

 

2000年、スタバ上陸の衝撃がもたらしたもの

福岡で、現存する最も古い喫茶店と言われているのは、1934年に創業した「カフェ・ブラジレイロ」。自家焙煎コーヒーはもちろん、洋食屋としても現在まで人気のお店です。

昭和9年創業の老舗喫茶店「カフェ・ブラジレイロ」。ブラジル・サンパウロ州のコーヒー局がブラジルコーヒーを宣伝する目的で開いたもの。九州文学の作家が集う、文化サロンとしての役割も担ってきた

また、ネルドリップの抽出にこだわって独自のスタイルを確立し、全国にその名を轟かせている「珈琲美美(コーヒーびみ)」は、1977年創業。福岡には、ゆうに半世紀を超えるコーヒーの歴史があります。

そんな長い福岡コーヒーシーンの中で、大きな変化をもたらしたのが今から18年前。福岡における「スタバ元年」ともいえる2000年のことでした。

エスプレッソを使ったシアトル発のコーヒーストア「スターバックス コーヒー」が、日本に初上陸したのは1996年。その4年後、九州初の店舗として、福岡のホークスタウンにオープンし、その年のうちにキャナルシティや岩田屋など、福岡市内に新規店舗が続々と生まれ、九州でもスタバ旋風が巻き起こりました。

2000年5月、福岡の2店舗目としてオープンした「スターバックス コーヒー 福岡キャナルシティ店」。4月の初出店から、半年のうちに一気に4店舗を出店

当時のスタバで使っていたエスプレッソマシンは、イタリア製の「ラ・マルゾッコ」という手動式のものが主流。淹れる人のコントロール次第で味わいに影響が出るため、バリスタの実力が問われ、お客からバリスタが指名を受けるほどだったといいます。そしてこの当時、繊細なエスプレッソの味わいが楽しめるエスプレッソマシンと西海岸の自由なスタイルを併せ持つスタバで学び、その後の福岡のコーヒーシーンに大きな影響を与えた二人がいます。

一人は、「Click Coffee Works」の古賀由美子さん。

多様なコーヒー文脈を持ちながら、自身の店舗を立ち上げるではなく、福岡のコーヒーシーン全体をサポートして底上げする活動を続けている古賀さん。シーンにとって、彼女の存在はとても大きい

彼女は、「スターバックス コーヒー ハッチェリー天神店」(現在は閉店)のオープニングスタッフとして入り、その後13年間スターバックスで働きました。現在は、福岡を美味しいコーヒーとそれを楽しむ人で溢れる魅力的な街にすることを目標に、自身で立ち上げた「Click Coffee Works」として活動しています。

そしてもう一人が、「MANLY COFFEE」の須永紀子さん。彼女もまた同時期にスタバで働き、わずか3年でバリスタの頂点となるコーヒーアンバサダーにまで上り詰めた人。その後は自室で自家焙煎を始め、現在は福岡・平尾にコーヒーショップ「MANLY COFFEE」を開いています。

スターバックスで2代目コーヒーアンバサダー(年に一度行われる、社内のコーヒーコンテストの優勝者)となった須永さんは、2008年に独立してMANLY COFFEEをオープン。エアロプレスという抽出方法に着目して日本に紹介した、エアロプレスの第一人者でもある

 

2007年、有志によるコーヒー勉強会COF-FUK発足

古賀さんがスタバ在籍時であり、須永さんがスタバを辞めて自家焙煎を始めた2007年、福岡でコーヒーの有志団体「COF-FUK(コファック)」が立ち上がりました。古賀さんの紹介で意気投合した須永さんと「manu coffee」の西岡総司さんが勉強会を立ち上げ、ふたりの呼びかけで徐々に人が加わるようになり、毎月開催されるようになったのです。集まったのは、現在の独立系カフェの流れを作った前述の「manu coffee」西岡さんや、当時「manu coffee」に在籍し現在は大分市で「3 CEDARS COFFEE」を営む庄司三杉さん、現在福岡市内に4店舗を構える「REC COFFEE」の岩瀬由和さんと北添修さん、後に“焙煎世界チャンピオン”にも輝く「豆香洞コーヒー」の後藤直紀さんなど。

発足の経緯について、古賀さんはこう説明します。

「当時は、まだまだコーヒー豆の産地や焙煎、抽出方法にまつわる情報が少なかった時代。立ち上げメンバーも、自分のお店を始めた直後か、これから始める予定といった時期で、わからないことが多くて不安を抱えていたんです。でも、始める以上、自分のコーヒーは絶対の自信を持ってお客さんに提供したい。そのために、経験をシェアしたり、コーヒーに関するディスカッションをする場が必要でした」(古賀さん)

COF-FUK発足当初の資料(須永さん提供)。参加者のうち、この時点で開業していたのはmanu coffeeのみだったが、最初から「福岡のコーヒーの品質向上」を共通の目的としていたことがわかる

例えば、日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)のセミナーに誰かが参加したとなれば、その経験をシェアする会を開く。お題を出し、それぞれ持ち回りでコーヒー豆を仕入れて、味の違いを議論する。今では当たり前に制定されているカッピングのフォーマット(コーヒーの風味や味の評価法)も、方式や豆選びを含め、活動当初はみんな手探りでした。そのように勤勉に学び、各々の知識や経験を共有していく中で、メンバーそれぞれのコーヒーマンとしての像がくっきり浮かび出てくるような感覚があったといいます。

「COF-FUKが特徴的だったのは、『自分はコーヒーでやっていく』という強い意志を持った人たちの集まりだったこと。その決意表明の場でもあったんです。ぼんやりと集まっている人は、一人もいなかった。『REC COFFEE』の岩瀬くんや北添くんが、まだ店舗もなく、『これから移動式のコーヒー屋さんを始めるんだ』と言って、トラックの購入資金を貯めていた時代ですから。そうやって、みんなが一歩ずつ進んできたんです。今はそれぞれが自分たちの拠点を持ったことで、集まることもなくなりましたが、当時の熱量は確実に今につながっていると思います」(古賀さん)

翌2008年、COF-FUKで集った人たちが一気に動き始めます。「MANLY COFFEE」「REC COFFEE」「豆香洞コーヒー」などが同年に続々オープン。すでに2店舗を構えていた「manu coffee」もその後さらに店舗を増やし、福岡の独立系コーヒー店の中で存在感を増していきます。「manu coffee」は音楽やアート、グッズなどストリートカルチャーに根ざした展開によってコアなファンを獲得。「REC COFFEE」は博多駅前や天神の中心地、東京・表参道にも店舗を出店し、より広範な展開を行っていきます。

現在の福岡のコーヒーシーンを牽引するmanu coffee。その一号店として2003年に開業した春吉店は、ポートランド出身のアメリカ人が経営していた「ポートランドロースティング」というカフェが前身。入り口の扉の上にあるこのバラは、その店の名残。ここにも福岡のコーヒーショップの歴史がうかがえる

世界一の焙煎士とバリスタが福岡から誕生

こうした中から、日本はおろか、世界でナンバーワンを取るコーヒーマンも生まれていきます。「豆香洞コーヒー」の後藤さんは、焙煎の技術を競う2013年の「World Coffee Roasting Championship 2013」で見事優勝。ロースター(焙煎士)の世界チャンピオンになりました。

東京・南千住にある名喫茶「カフェ・バッハ」で学び、2008年に福岡・大野城に「豆香洞コーヒー」を開いた後藤直紀さん。フランスのニースでおこなわれた「World Coffee Roasting Championship 2013」で優勝し、世界一の焙煎士に(ご本人より写真提供)

そして翌2014年には、福岡で早くからスペシャルティコーヒーを紹介していた「ハニー珈琲」オーナーの息子である井崎英典さんが、「World Barista Championship 2014」で優勝。バリスタとして、アジア人初の世界チャンピオンに輝きました。

以後、スペシャルティコーヒーの社会的な認知の高まりとともに、福岡の独立系コーヒー店もさらに増加。InstagramなどSNSで人気のコーヒーショップには、国内や海外の人たちで店舗前に長蛇の列ができる光景を見かけるようになりました。

2016年、リニューアル前のREC COFFEEで働く岩瀬さん。この直後、岩瀬さんは「World Barista Championship 2016」にて準優勝。福岡から銀メダリストも誕生した

世界53か国で発行されているコーヒー専門誌「STANDART」の日本版編集長・室本寿和さんは、福岡のコーヒーシーンの特徴をこう分析します。

「私が長くいたアムステルダムや東京では、家賃を含めたランニングコストが高く、店を維持するためにはどうしても高効率にお客さんを回転させていく必要があります。でも福岡は、そのコストが抑えられるために、オーナーがじっくりコーヒーと向き合う余裕があるように感じます。街のサイズも程よくて、飲み屋をハシゴするようにコーヒー屋もハシゴできるから、飲み手も知識があって、成熟していて。ビジネスライクな展開ではなく、ライフスタイルを提案しながらゆっくりスケールしていけるのが、福岡の特徴なのかもしれません」(室本さん)

2012年から17年まで、アムステルダムで印刷と翻訳の仕事をしていた室本さん。現地でSTANDARTに出会い、日本版の発行計画があることを聞きつけて直接連絡を取り、日本版編集長に就任。冊子全体の4割を占める日本オリジナルの記事は、企画から執筆まで行っている

福岡のコーヒーショップが次世代に残せるもの

福岡は今、コーヒーショップが増えすぎて、飽和状態だと言う声も聞こえてきます。室本さんは、これからの福岡のコーヒーシーンをどう予想しているんでしょうか?

「私は、飽和状態にあるとは思っていません。コーヒーにはコミュニティを作る力があると信じています。心地よい空間があり、人との出会いがあり、時には人生を変えてしまう。だから、地域の人々の中にある、地域密着型の商売だと思うんです。半径2km以内に住むお客さんが毎日来てくれれば、住民も働く人もハッピーになれるはず。そういう意味でまだまだコーヒー屋は足りないくらいだと思うんです。街のサイズにあった増え方をすればいいし、地に足がついた形で広がっていければいいですね」(室本さん)

これからもオーガニックに広がっていけば、より福岡のコーヒーシーンは「おもしろいもの」になっていくのかもしれません。最後に、福岡のコーヒーシーンの課題について、シーンの中で“当事者”として見てきた古賀さんに聞いてみました。

「かつて、日本で純喫茶がブームになった頃の喫茶店のオーナーたちは、コーヒーやコーヒーを取り巻く文化について深く知っている、いわばインフルエンサーでした。お客さんを楽しませながら、知識や教養を啓蒙していったことで、今の日本人のコーヒーを嗜む文化が定着しているんだと思います。今の若い世代の人たちが『カフェをやろう』と思えるのは、それで生活できると信じられるからで、先人たちの築いたものに乗っかって仕事をしていると言ってもいいと思います。では私たちの世代が、目の前のお客さまに対して、10年後や20年後にもしっかりと残るような何かを提案をできるのか。それを考えることは、先人たちが作ってきた豊かなコーヒー文化を次につないでいくためにも、自分たちの文化として昇華させるためにも大切なことだと思います」(古賀さん)

昭和の時代から脈々と受け継がれたコーヒー文化に親しみながらも、スターバックスによる洗礼を受け、そこに時代の独立精神が流れ込んで、多様性をもたらした福岡のコーヒーシーン。ここからさらにどんなコーヒーショップが誕生し、そこでどんな会話が交わされていくのか、楽しみです。

 

[店舗紹介]

・カフェ・ブラジレイロ

福岡県福岡市博多区店屋町1-20  092-271-0021

・珈琲美美  https://cafebimi.com

福岡県福岡市中央区赤坂 2−6−27  092-713-6024

・MANLY COFFEE http://manly-coffee.com

福岡県福岡市中央区平尾2丁目14-21 092-522-6638

・manu coffee https://www.manucoffee.com

manu coffee roasters クジラ店

福岡県福岡市中央区白金1-18-28 092-707-0306 (他に大名店、春吉店、柳橋店あり)

・3 CEDARS COFFEE http://3cedarscoffee.com

大分県大分市生石2丁目3-9 097-547-8117

・REC COFFEE https://www.rec-coffee.com

薬院駅前店  福岡県福岡市中央区白金1-1-26-1F 092-524-2280 (他に天神店、博多マルイ店、県庁東店あり)

・豆香洞コーヒー http://tokado-coffee.shop-pro.jp

白木原店 福岡県大野城市白木原3-3-1 092-502-5033 (他に博多リバレインモール店あり)

PROFILE


福岡コーヒーカルチャー

Qラボ編集部 ライター 佐藤 渉

TEXT BY

sato.wataru
Qラボ編集部 ライター 佐藤 渉

1980年千葉県船橋市生まれ、横浜国立大学卒。企業広報ツールの企画制作、書籍編集などを経て2010年よりフリーランスに。 翌年から福岡・東京の2拠点で活動を開始。インタビュー実績約1,000本。主なクライアントに博報堂ケトル、福岡市役所、WOWOW、リクルートジョブス、明治、銀座月光荘画材店、 他。音楽活動としてサックス演奏など。

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