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vol.8 #教育DX2022 デジタルによって変わるものと、変わらないもの。Vol.1

社会全体でデジタルトランスフォーメーションが進んでいる中、身近な教育の現場は、どのように変化しているのか。現状を把握したいと思い立ち「#教育DX2022」と題したリサーチプロジェクトを始動した。

教育現場の生声をききながら、システム開発に携わるDNP大日本印刷株式会社の佐藤俊介氏にもお話をうかがい、2022年時点における教育DXの現状把握を試みる。

シリーズ前編となる本稿は、最新の設備と環境が整備された福岡市立照葉北小学校を訪ね、今年4月、照葉北小の校長として着任された久保田篤先生に話をうかがった。

福岡市の新しい都市空間として2005年に街びらきしたアイランドシティ香椎照葉。近年はタワーマンションをはじめとする住宅開発で人口が急増。これに呼応するように、2019年4月、アイランドシティ2校目の小学校として「福岡市立照葉北小学校」が開校した。令和6年4月には3校目の小学校が開校予定で、今、アイランドシティは教育環境の整備が急速に進んでいる。

 

<Qラボ>久保田校長、本日はよろしくお願いします。照葉北小学校さんは福岡市で最も新しい小学校とききました。以前の小学校に比べて進んだ点は何でしょうか?

<久保田校長>照葉北小学校が、というよりも、コロナ禍の影響で学校は大きく変わりました。子供たちの一人一台端末の導入が全国的に急速に進み、令和2年度以降、福岡市内の小・中学校の全児童生徒に端末が配付されました。福岡市は100%の整備状況となっています。これに先立ち、令和元年度には教室にプロジェクターとスクリーンを設置し、黒板の右半分が電子黒板として使えるようになりました。

<Qラボ>デジタル機器の使い勝手はいかがでしょうか?

<久保田校長>黒板の全面を使用していた先生は、黒板が半分になるので工夫が必要です。良い点は、例えば、今6年生が福岡市博物館にご指導いただき「勾玉づくり」を学んでいます。その際、手元をカメラで撮映しながら「このように作るんだよ。」というように、プロジェクターで大きく投映しているので、とてもわかりやすく学べています。他にもさまざまな動画の教材を映すことができます。


△照葉北小学校における算数の授業の様子。ホワイトボードに投影した設問に答案をペンで書き込めるようになっている。

<Qラボ>子どもたちが端末を使う授業はどのくらいありますか?

<久保田校長>ほぼ毎時間に近いくらい使っていると思います。端末を使わない日はおそらく無いのではないでしょうか。例えば算数は、児童の計算の力に合わせて、前の学年に戻って学び直すことなど、子どもたち一人ひとりに対応する指導もやりやすい環境になっています。

<Qラボ>照葉北小学校独自の取り組みを教えてください?

<久保田校長>照葉北小学校は“ICTを活用した授業改善”をテーマに掲げて取り組んでいるので、他校よりも端末を使える先生は多いと思います。

教育の「不易」の部分では授業スキルや知識は、ベテランの先生が上で指導することも多いんですが、デジタル機器の部分はベテランの先生が若手に教えてもらうというようなこともあるんです。

<Qラボ>なるほど。今、若い先生の割合はどのくらいですか?

<久保田校長>半数近いと思います。2つの学年は学年主任が30代の先生です。採用の事情もあって40代が少ないというのもありますが、全体的に若い先生が増えています。
 


△「国語」の時間。机には、デジタル端末と教科書、ノートが広げられていた。

<Qラボ>デジタルが導入され、子どもさんは学びやすくなったというのはありますか?

<久保田校長>やっぱり食いつきはいいですね(笑)。デジタル教科書は、教科書の中身をそのまま映せる。黒板に大きく映してそのままペンで書き込めたりするのはデジタル化の良い部分だと思います。

<Qラボ>デジタルを活用した指導にストレスはありませんか?

<久保田校長>働き方改革と言われる中、デジタル化されて良い部分も多いんですが、学校現場はやらなければいけない仕事が昔よりも確実に増えています。

例えば、デジタル教材で自己採点ができるようになっていたりしますが、従来のようにペーパーの家庭学習もあります。

「不易」の部分で大事にしていかないといけない部分と、「流行」の部分で、効率化を図っていくことも大切。不易と流行のバランスが大事だと考えています。

 

DXシステムを開発・提供する現場の視線①

インタビュー/DNP 大日本印刷教育ビジネス本部営業企画部第4グループリーダー

佐藤俊介氏

 

教育現場のデジタル化に理解を深めるために、全国で教育のデジタル化をに取り組む大日本印刷(以下DNP)で教育DX事業の統括を務める佐藤俊介リーダーにリモートを通して話をうかがった。

 

<佐藤リーダー>GIGAスクール構想により、2020年度には一人一台子供達にデジタル端末が配られました。これまでは、先生が教壇で黒板に書きながら授業を行うチョークアンドトークといわれる勉強のスタイルだったわけですが、「デジタル端末を使ってどう授業をするのか?」ということが学校の現場の先生が考えなければならない課題になっているんです。

Qラボ>なるほど。現場に委ねられているんですね。

<佐藤リーダー>そうなんです。例えば、デジタル端末を紙の教科書の代わりとして使う場合、ノートの代わりはなくノートは紙で残る。逆もしかりで、デジタル端末をノートの代わりとしてデジタル端末を使う場合は、紙の教科書は残るんです。結局、すべてデジタル端末だけで授業できるわけではないので、どう使うべきなのかは学校現場の先生に委ねられているんです。本来であれば、活用方法も十分に議論された上で端末も配布されるのが理想でしたが、コロナの影響でオンライン授業の必然性を迫られたこともあり、活用方法を十分に議論する時間がないまま、配布せざるを得なかった。というのが現状です。

Qラボ>わかりやすいですね。「端末の使わせ方」の決まりがまだない。 

<佐藤リーダー>コロナによる休校時には、オンライン授業をするために使われていますが、これは本来の目的を果たすための使い方とは違っていると思っています。子どもたちが自学自習するためのドリル型の「デジタル教材」やクラウド版の学習支援システムの実装は進んでいると思いますが、授業の中でフル活用されるためには、まだまだ時間がかかると思います。活用方法を考える先生方も大変お忙しいと伺ってますので。

Qラボ>全国的に授業のデジタル端末活用はまだまだ進んでいないんですね。先生の授業の様子は、昔ながらの部分が多いということになりますか? 

<佐藤リーダー>そうですね。基本、紙の教科書を使い、紙のテストを実施して評価する。という流れは昔と変わってないと考えています。学校の先生方は、毎日の授業をどうするかだけでなく、部活の指導があるなど多忙を極めています。そんな中、コロナ対策もしなければならなかったり、教育の中でデジタル端末の活用方法を模索しなければならなかったり、一番大変になっているのは、学校現場の先生方なんです。

公立学校の先生は所定外労働時間が80時間を超える先生も多いという報告もありますので、「働き方改革」と「個に応じた学び」を同時に解決していくことが急務だと考えているんです。 子ども達が学ぶツールを提供することも教育としてとても大切ですが、先生の指導を支援する仕組みを提供していくこともも教育には大切だと考えています。「働き方改革で得られた時間で子供達に目を向けましょう」という大きなコンセプトで取り組んでいます。

Qラボ>素晴らしい取り組みですね。生徒と触れ合う時間が増える手助けをされてらっしゃる。 (次回に続く)

「GIGAスクール構想」とは、児童生徒11台の学習用端末やクラウド活用を踏まえたネットワーク環境の整備を行い、個別に最適化された教育の実現を目指す、文部化学省が推進する国家プロジェクト。 

※DNP佐藤リーダーのお話は、開発意図を理解するためのものです。照葉北小学校の具体的な取り組みとは無関係です。

 

<Qラボ>照葉北小学校にしかないものはありますか?

<久保田校長>運動会は校区内にある福岡市総合体育館を利用させていただきました。走る競技は別の日程で校庭で実施し、競争遊技と表現のプログラムを総合体育館で実施しました。天候や光化学オキシダントの心配もいらないので、半日開催ではありましたが、プロ選手も使用する新しい体育館で運動会が実施できたのは照葉北小ならではだと思います。

△体育館では体育の授業。運動会の練習に励んでいた。

△照葉北小学校は校内が工夫されている。その一つがここ。ひな壇状の階段教室は発表会などに活用される。

<Qラボ>子どもたちと先生が共に幸せになるためには、どのようなことが必要だとお考えですか?

<久保田校長>子どもたちの育ちに、大人が同じ方向を向いて、協力連携してやっていけることが子どもにとって良いことだと考えています。理解していただけるように発信することで、ご家庭でも同じ方向性で指導していただくことが大切です。

今、「朝の挨拶運動」ということで、私自身が校門に立って挨拶の指導をしています。きちんと立ち止まって挨拶できる子をカウンターで数えているんです。始めたころは約23%だったのが、2ヶ月経って49%まで上がってきたんです。

中国の故事で「90%までの道のりと、90%から100%までの道のりが同じ。」というものがありますが、今のところは順調だとは考えていますが、保護者にも協力いただきながら進めていければと考えています。

<Qラボ>数値化されているんですね。校長先生自らが率先して取り組んでらっしゃる。

<久保田校長>これは「学校だより」です。全校朝会でお話した内容を中心に毎月発信しています。(5月号をみながら)ハチドリは1秒間に約55回羽ばたける。これは人間にはできないけど、人間は同じ1秒の中で「ありがとう」や「おはようございます」という言葉を発することができます。このように素晴らしい時間の使い方があるから、そんな1秒を増やしていきましょう。校長はそういう気持ちで指導しています。ということを発信しているんです。

これを読んでくださる方からは反応があるので、こういうかたちで関係を少しでも増やしていければと考えています。

 

△「学校だより」5月号の紙面より。「価値ある1秒を増やせる学校にしたい」という久保田校長の願いが綴られている。

<Qラボ>挨拶の指導。感動しました。元気な挨拶がもっと増えていきそうな光景が目に浮かびます。久保田校長、本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

 

取材を終えて

久保田校長と校舎をご案内いただく途中、「校長先生!」という子どもたちの呼びかけが何度もこだました。

実は子どもたち、久保田校長の胸元に青く輝く勾玉に興味津々。しばし、「なぜ青いの??」という質問タイムが繰り広げられ、久保田校長は終始笑顔で勾玉の秘密について語る。校長というお立場にありながら、気さくに応じる久保田校長に感動させれらた一方で、子どもたちの好奇心に満ちた表情に、教育の大切さの全てがあるように感じた。

どんなに便利な世の中になってもリアルなコミュニケーションの大切さは変わらない。

久保田校長は「不易と流行」というキーワードで、学ぶこと、教えることの大切さと、デジタルによって変化を促していくことの大切さを教えてくれた。「不易あってこその流行。」久保田校長が子どもたちと触れ合う姿をお見受けし納得することができた。

  △久保田校長が校内を歩くと、子どもたちが集まってきて挨拶。そして質問がはじまった。

久保田校長には、貴重なお時間をいただき大切な教えを授けていただきました。ありがとうございました。また、取材に協力いただきました照葉北小学校のみなさま、ありがとうございました。

次回は、北九州市若松区を訪れ、北九州市立石峯中学校の松本教諭に話をうかがう。(後編に続く)

TEXT BY

osamu soeda
副田 治

九州しあわせ共創ラボ 所長

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