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タクシー会社は「まち」とともに。民間主導の乗合タクシーを運行する「光タクシー」の取組み。

「枝光やまさか乗合タクシー(以後、おでかけ交通)」。北九州市八幡東区枝光に民間のタクシー会社が運営する地域交通網がある。

「北九州市枝光は“北九州のマチュピチュ”と呼ばれているんですけど、そこに地域のタクシー会社が乗合タクシーを走らせてるんですよ。」北九州市を拠点に活躍するプロデューサー/アートディレクターの八木田一世氏から、そう聞いたのが「おでかけ交通」を知ったきっかけだった。
急な坂道で有名な丘陵地枝光に、光タクシーさんが「おでかけ交通」を立ち上げたのは2000年。運行開始から20年以上が過ぎたことになる。

地域交通、モビリティサービスの重要性が盛んに語られるようになった今、全国各地で、地域にきめ細かな交通網を確保しようという動きがはじまっている。遡ること22年、「おでかけ交通」はどのように生まれ、どのような役割を果たしてきたのだろうか。「おでかけ交通」を運行する株式会社光タクシーの石橋孝三社長に特別にお時間をいただき、話をうかがった。

(Qラボ)本日は、よろしくおねがしいます。先ずは「おでかけ交通」運行開始当時のことをお聞かせください。2000年といえば、まだ、おでかけ交通の考え方は一般的ではなかったのではないでしょうか?

(石橋社長)そうですね。当時はタクシー会社が乗合タクシーを運行することは許されてなかったので、うちが日本中の乗合タクシーのほぼ元祖ではないかと思います。その後できた全国の乗合タクシーに多かれ少なかれ影響を与えているのではないでしょうか。2009年には利用者が100万人を突破しました。

(Qラボ)当時、行政のバックアップがあったんですか?

(石橋社長)背景としては、その頃、路線バスの規制緩和が発表されたんです(2002年に小泉内閣によって改正道路運送法等が施行)。路線バス事業者が免許制から届出制に変更になったことから、自由に撤退できるようになるという大きな変革に社会は揺れました。「バス会社が引き上げていくと、地域交通が崩壊するのではないか。」という危機感が叫ばれた一方で、タクシー会社に試しにやらせてみてはどうか。という機運が高まったんです。

そんな中、八幡東区の職員さんが実証実験をしたい。という提案を北九州市に申し出ててくれた。法的なことをクリアできるということと、補助金も出るということで、運行の条件は整ったんです。

(Qラボ)最先端の動きでだったんすね。

(石橋社長)ところが、当時、会社はこの事業に反対だったんです。「そんなことしたら、タクシーの運転手が反対するのではないか?」という声が大きかった。無理を押し切って「おでかけ交通」用の車を購入したんですが、義理の父にあたる当時の社長に「1年やってみてだめだったら自家用車にしますから!」と決意をしめすと、そこまで言うならやってみよう。ということになった。

(Qラボ)会社を動かしたんですね。石橋社長を動かした原動力はどのようなものだったんですか?

(石橋社長)北九州市の補助金をいただいて運行するので、枝光のまちを延命させることが大切。このまちに暮らす高齢者の外出機会を増やしたいという一心だった。一人の元気なお年寄りが1年間に消費する金額は意外に大きいので、高齢者の外出がまちの活性化に直結するんです。退職された、丘陵地に取り残された高齢者をいかにお運びするかだと考えています。お年寄りのニーズは、いかに縦に降りてくるかですが、足腰が弱ると降りようがなくなってくるので、それを応援する。単純な発想ですよ。

ここで簡単に地域交通に関する国の考え方を確認しておく。国土交通省が2022年6月に発表した「令和4年度交通白書」の第3章第2節に掲載された「地域公共交通活性化再生法の支援メニュー(下図)」をみると、「地域の移動ニーズにきめ細かく対応できるメニューの充実」という施策が示されている。これによれば、民間事業者に対しては「地域旅客サービス継続事業」を創設し運行費を補助する他、地方自治体が自家用有償旅客輸送を推進する旨も記載されており、ここではタクシー会社は委託先として協力する立場となっている。

このように、2022年度は国家主導で地域の交通を民間事業者とともに守る仕組みが施策として掲げられている。22年前の石橋社長の取り組みは、こうした未来を先取りしていたといってよさそうだ。

(Qラボ)次に、光タクシーさんのことについておきかせください。

(石橋社長)うちは創業105年。この辺では、折尾タクシーさんに次ぐのではないでしょうか。ここは、新日本製鐵(現在の日本製鉄)八幡製鐵所の門前町という立地。戦後の経済政策で鉄を輸出していましたから、九州中から人が集まり、傾斜地にどんどん家が建った。交通手段が人力車の事業から、車に変わる流れでタクシー免許を取得したという歴史があります。

まだまだ車が珍しい時代だったから、関門トンネルの開通などのパレードではうちの車が使われたんですよ。長らく、八幡製鐵所の社用ハイヤーを中心に商っていたんですが、事業縮小などで需要が消滅していった。タクシー業界はそもそも地域に密着することで商っているわけですから、われわれはこの枝光でなんとか商って行くしかない。地域を活性化することがわれわれの業務には欠かせないというわけです。今では運転という職業が選ばれにくくなっているのというのもありますが…。

(Qラボ)若手の採用にはご苦労がありますか。

(石橋社長)ええ、私は今年還暦ですが、わが社では若手ですよ(笑)。最高齢ドライバーは78歳。介護されるタクシー運転手です。50代は子供、は70歳は中堅ですよ(笑)。20代は赤ちゃんかな!(笑)。

(Qラボ)驚きました(笑)。勤務形態はどのような感じですか?

(石橋社長)自由な出勤形態にしています。というのも、反射神経が落ちた70代のドライバーに深夜の運転はさせられない。午後3時間だけ乗ってもいいようにしているんです。コロナ禍においても配車不能が発生しているくらい出払っているんです。昔はグループ全体で80台以上のタクシーを約130人で動かしていた。今は56台を約50人で回しています。

 

次に、「おでかけ交通」に乗車させていただきながら、石橋社長の話をきいた。枝光のまちに網目のように張りめぐらされた5つのルート(今回乗車したのは「荒手ルート」)の全長は約21.2キロだという。料金はどこまで乗っても一人200円。それでは出発!

(Qラボ)自転車のベルを呼び鈴に代用していますね。

(石橋社長)アイデアでしょ。以前にあたりまえにやると60万円かかると言われた。一個100円ですから!(笑)

(Qラボ)運行開始から20年。「おでかけ交通」は、まさに「地域の交通」ですね。

(石橋社長)商店街の左側のお店が開いているのがわかりますか?「おでかけ交通」が通る車線だからなんですよ。商店街の閉まっているお店は「チャレンジショップ」のように活用されればいいなと思っています。「おでかけ交通」は、商店街という小さな商業集積が自前の交通手段を持つということの一つの切り口だと考えています。

「おでかけ交通」は慣れた運転で坂道を登る。車窓には枝光から若松方面の穏やかな景色が広がった。

(石橋社長)あっという間に高度稼いでるでしょ。(笑)
少し前から、買い物難民の時代と言われてますよね。地域交通は大きく「人を連れて行く方」と、「商品を積んで持って行く方」に分かれるといわれているんです。人の欲求には“選ぶのを楽しみたい。”というものがあると思うんです。だから、どちらかといえば、「人を連れて行く方」だと考えてるんです。

(Qラボ)こうして乗ると「おでかけ交通」が生活に密着しているということがよくわかります。

(石橋社長)やってみてわかったことがいっぱいあります。アンケートは信用できないんですよ。アンケートに答える人は使わない人だから。(笑)ルート開発は実際に歩いて組み立ててます。

「枝光本町」バス停で下車。ちなみに、ここにはスマートバス停が設置されていて、西鉄バスとおでかけ交通の両方を確認できる。

続いて、石橋社長が仕掛けるまちの活性化装置「枝光本町商店街アイアンシアター」を見学した。ここは、銀行の支店が入居していた建物をリノベーションした「まちの劇場」だ。ステージや照明、音響、舞台装置までプロ仕様の機材を揃えたそうだ。石橋社長の指揮の元、運営を担当する森田館長に話を聞いた。

(Qラボ)うわぁ、味ありますね。金庫が備品置き場なんですね!

(石橋社長)金庫が役立ってます。(笑)

(Qラボ)ここ、「アイアンシアター」の役割はどのようなものですか?

(森田館長)初めて会場を借りてイベントをする人にとって、一般の劇場はどうしても敷居が高くて利用しづらい。「アイアンシアター」は、誰もが気軽に発表できる場所を提供したい。という考えで運営しています。上演会やセミナー、初めて舞台を披露したいといったみなさんに気軽に利用して欲しい。1時間2,000円から利用できるので、学生さんや若い世代の方々にはちょうど良いスペースだと思います。キャパシティは80名。ライブやアートの展示など、なんでも対応可能なので、ぜひ利用してください。

(Qラボ)森田さん、ありがとうございました。

石橋社長、最後に枝光のまちに対する想いをお聞かせください。

(石橋社長)「おでかけ交通」の目的は、交通という“ビジネス”なのか、まちの“移動インフラ”なのか、移動弱者に対する“福祉”なのか。ここはあまり議論されていないんですが、私はその全てを実現したいという気持ちで取り組んでいます。「アイアンシアター」もつくったし、これから立ち上げるプロジェクトもある。こらからも枝光本町商店街を中心に「まちの血流」を流し続けていきたい。

光タクシーは枝光のまちと一緒に100歳を迎えることができた。だからこそ、このまちに「恩返し」する必要があるんです。

 

取材を終えて

光タクシーの石橋社長にお話をうかがい、とても大切なことを学んだ。枝光本町商店街を中心とする枝光のまちを生きた状態にし続けるために、考え抜き、行動し、ゼロからイチを生み出し続ける。仮に「まちづくりといえば自治体。」というような発想があるとすれば、それは間違いであり、そこで経済活動を営むすべてのひとは、まちの活性化に率先して取り組んでいくべきなのだと改めて気付かされた。

社会や周辺の環境は変化しても地域という“領域”をぶらさずに、真っ直ぐに向き合い続ける。チャンスがあれば、それを武器に、さらに積極的に取り組んでいく。まちにコミットすることの大切さを学ぶことができた。九州しあわせ共創ラボの使命は、九州のしあわせを実現するために共創していくこと。我々が何をすべきかという、お手本を見せていただいたように思う。難しいことだということは承知だが、石橋社長のように、常にポジティブに、前を向き、課題に向き合い続けたい。

縁を与えてくれた八木田一世氏、そして忙しい中取材に応じていただいた石橋社長、森田館長に心から感謝します。ありがとうございました。

 

・株式会社光タクシー

・枝光やまさか乗合タクシー

北九州市八幡東区枝光本町7ー15 TEL 093ー671ー1261

https://hikari-taxi.co.jp/

 

・枝光本町商店街

https://general0201.wixsite.com/edasyoten

 

・枝光本町商店街アイアンシアター

北九州市八幡東区枝光本町8ー26 TEL 080ー3998ー9007

https://r.goope.jp/irontheater

 

TEXT BY

osamu soeda
副田 治

九州しあわせ共創ラボ 所長

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