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  • 【後篇】70代後半の老練研究者を率いるのは32歳社長  宇宙産業の未来を切り開く九州の“リアル下町ロケット”

vol.5QPS研究所
大西俊輔さん、市來敏光さん、八坂哲雄(研究所所長)さん

70代後半の老練研究者を率いるのは32歳社長
宇宙産業の未来を切り開く九州の“リアル下町ロケット” (後編)

大ベテラン研究者の情熱に引き寄せられるように若い才能が集結

株式会社QPS研究所の代表取締役・大西俊輔さんはまだ32歳。一方、95年から九州大学で小型衛星の開発研究を始め、2005年のQPS研究所を立ち上げた創業者のひとりでもある八坂哲雄さんは、現在「研究所所長」のお立場。しかも大西社長は九州大学出身で、八坂さんの研究室の卒業生でもあるそう。第三者から見ると、実に奇妙な関係……その点について、八坂さんは笑みを浮かべながら、また時折、大西さんを「いじり」ながらこう答えます。

「あれは君(=大西さん)が何歳の時だったっけな? いきなり私のところに来て『入社したい!』とか言うわけです。東京や名古屋の大手メーカーに就職するのではなく、先生と一緒にやりたいと。これは困りましたねぇ(苦笑)。もう頃合いを見て隠居して、自由になろうと思ってたタイミングでしたし、そもそも給料をちゃんと出せるかもわからない状況でしたから。それであえて厳しく『うちに入りたいなら、それなりの覚悟を持ってきたんだろうな? 半年後に自分が社長をやるって約束できるなら、入りなさい』と言ったんです。そうしたら入社して、本当に社長になってしまった(笑)」(八坂さん)

それまで研究所の平均年齢は72歳。そこにいきなり当時20代の大西さんが加入し、しかも社長にまでなったのです。それまで「九州に人工衛星の開発技術を残せればいいという発想で、自分たちで衛星を打ち上げることまでは考えてなかった」(八坂さん)というQPS研究所は、大西新社長の誕生で衛星の打ち上げに向けて、一気に動き出すことになります。

学生時代、八坂さんの研究室で多くを学び、さらに(九州大学にとどまらず)日本中の衛星プロジェクトに参加していた大西さん。大学卒業時には、すでに十数回のプロジェクトを経験していましたが、これが大西さんの“凄さ”だと市來さんは言います。

「大手企業の研究員として衛星を作るとすると、ひとつの衛星の開発から打ち上げまでに10年はかかりますから、生涯に携われる衛星開発は3つが限度。ところが大西は、大学という比較的短期で進むプロジェクトに多く関わり、すでにかなりの経験値を蓄えていました。2014年には、2008年5月よりプロジェクトリーダーとしてシステム全般の指揮を行っていた衛星の打ち上げに成功。30代前半にして、すでに衛星に関する知見は全国トップクラスです」(市來さん)

かく言う市來さんもかなりのキャリアの持ち主。ソニーで社会人をスタートさせた後、ハーバード大学でMBAを取得。米国ベンチャーや経営者として事業再生に従事した後、2015年当時、投資ファンドの「株式会社産業革新機構」に在籍し、自身の地元でもある福岡で投資対象となりうる企業を探していたと言います。そこで目をつけたのが、宇宙ベンチャーのQPS研究所でした。

「QPS研究所は、事業内容はとても魅力的でしたが、基本的にはみんな技術者。資金調達やビジネスプランを作れる人がいなかったんです。だから大西に、『適任者を入れなければ誰も出資なんてしてくれないぞ』と伝えていたんですよ。ところが、いつまでたっても人が入らない(苦笑)。業を煮やした僕は怒ったんです。『そんなことじゃ、いつまで経っても成功しない』と。そうしたら、大西がポツリと『市來さん、一緒にやってくれませんか』と言うわけです。すごく驚きましたが、これも何かの縁だなと思ってね……その3週間後には転職が正式に決まっていましたよ(笑)」(市來さん)

95年から九州で人工衛星の研究開発をしてきた八坂さん。その愛弟子で、若手でありながら衛星開発に日本トップクラスの知見を持つ大西さん。そして経営経験もあり、投資ファンドで多くのスタートアップを見てきた市來さん。さらに、原資となる出資金。こうして役者は揃った……かのように思いましたが、そう簡単にはいかなかったそう。

「内部に入ってみてまず驚いたのが、コスト意識の低さ。このままいけば、そう遠くないうちに運転資金が底をつくことは火を見るより明らかでした」(市來さん)

そこで市來さんは、入社直後から徹底したコストカットを行うなど経営の健全化に着手。同時に、ベンチャーキャピタルへ出資を募る営業活動を、大西さんと共に始めます。しかし計100社を訪問しても、全く手応えがつかめず、けんもほろろの状態だったといいます。

それは「絶望」と言える状況でした。革新的な人工衛星であることには絶対的な自信があるものの、それを本当の意味で認めてくれる人が日本にはいなかったのです。

そこで2016年10月、最後の望みをかけてアメリカのシリコンバレーを訪問。その際、「我々は小型のレーダー衛星の開発に成功した」と宣言して回ったそうです。すると、グーグルの衛星関連のトップやシリコンバレーの著名ベンチャーキャピタル、米国の有名な宇宙ベンチャー等、多くのびっくりするような方々から「会いたい」との反応があったとのこと。

「最初は、疑われましたよ。『君たちの言っていることはホントか?』と。先方は、技術的な課題もよく理解しているから、我々の言っていることがいかに困難か、よくわかってるんです。だから、その場で質問攻めにあいました。でも、我々が丹念に答えていくと、徐々に信用してもらえて。そこから、状況が変わっていきましたね」(市來さん)

時を同じくして、2016年11月に、小型レーダー衛星の開発を行うアメリカのベンチャーが資金調達に成功。日本国内でも「レーダー衛星は可能性のある分野だ」との認識が広がり、ついに翌年10月、QPS研究所も23.5億円の資金調達に達成したのです。現在、QPS研究所は来春の打ち上げに向けて、フルスロット状態にあります。

QPS研究所の社員は現在11名。ベテランから若手まで、平均年齢52歳だがフレッシュなチーム

QPSが切り開いた道 その先にある“明るい未来”とは

QPS研究所が開発した小型衛星を、たとえば36機打ち上げれば、世界のほぼどこでも約10分で観測することができるそうです。コストは従来の100分の1なので、それも十分実現可能とのこと。そしてその先には、宇宙から見たリアルタイム情報をスマホで確認できるものすごい未来が。

「人や車の動きを観測すれば、“いま”の混雑状況をスマホなんかで把握したり、農地を撮影して野菜の生育状況や収穫時期を判断することもできるようになるでしょう。また安全保障、資源開発、災害などの状況把握にも活用できるかもしれません。そういった“可視化”だけでなく、未来予測にも使えます。物流状況の定点観測により市況を予測したり、気候データと組み合わせて需給判断もできる。使い方次第で、可能性は無限に広がっていくと思います」(大西さん)

「我々のような開発者は、インフラであり、きっかけを作っているようなもの。その先に、どう使うかを考えるのは市來くんのような若者であり、社外の人でもどんどんアイディアを出してくれたらいいと思っています。本当に社会に影響を与えるものは、おそらく皆さんの中から出てくると信じています」(八坂さん)

九州の研究者の宇宙への果てなき夢が、紆余曲折を経てついに実現されようとしています。それぞれの描いた物語を乗せて、来年前半には衛星を載せたロケットが宇宙へ。その旅立ちを、ここ九州から応援しましょう。

PROFILE

QPS研究所
大西俊輔さん、市來敏光さん、八坂哲雄(研究所所長)さん

[企業情報]

株式会社QPS研究所

代表取締役社長 大西 俊輔

住所 〒810-0001 福岡県福岡市中央区天神1-15-35 レンゴー福岡天神ビル5F

Qラボ編集部

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