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vol.4QPS研究所
大西俊輔さん、市來敏光さん、八坂哲雄(研究所所長)さん

70代後半の老練研究者を率いるのは32歳社長

宇宙産業の未来を切り開く九州の“リアル下町ロケット” (前編)

東京の下町を舞台に、中小企業で働く技術者たちが宇宙への夢を追いかける『下町ロケット』。同作品で描かれるような“夢物語”を、九州で実現させるべく奮闘する、福岡のベンチャー企業があります。

九州大学の名誉教授と若手研究者を中心とした「株式会社QPS研究所」。

北部九州に点在する町工場の技術力を集約し、独自の小型人工衛星を開発。一躍、世界的に注目される宇宙産業企業となり業界内外で注目を浴びています。2018年6月時点で資金調達額は24.5億円、現在は2019年前半に予定している初号機打ち上げに向けて、最終調整段階に入っているといいます。

宇宙産業という国家プロジェクト級の分野で、国内外に強力な競合がいる中、なぜ同社はここ九州を拠点にしているのでしょうか。今回は、 32歳でありながら代表取締役を務める大西俊輔さん、経営面を担う最高執行責任者の市來敏光さん、衛星研究の第一人者である研究所所長の八坂哲雄さんの3名に集まっていただき、事業構想と展望について話を伺いました。

左から、市來さん、大西さん、八坂さん

宇宙から街の状況をリアルタイムでチェックできる人工衛星

「弊社の強みは、小型のレーダー人工衛星を開発したことにあります」

インタビュー冒頭、そう語るのは最高執行責任者の市來敏光さん。そのよどみない口調には、自社ビジネスへの自信のようなものを感じさせます。

「これを開発したことにより、究極的には“リアルタイムのグーグルマップ”を実現したいと思っています。たとえば、ハウステンボスに行きたいと思った際に、スマホでハウステンボスの上空からの映像を見て混雑具合を確認したり、大好きなラーメン店の行列なんかも、リアルタイムでチェックしたり」(市來さん)

そもそも現在使われている人工衛星では、リアルタイムに映像を見ることができないそう。大きな理由は、時間帯と天候、そしてコスト。人工衛星は、カメラ式とレーダー(SAR)式の二つに大別され、カメラ式はコストが安く小型化も容易ですが、視界を遮るもの(雲など)があれば映らないし、当然夜には撮影ができません。

一方、レーダー式は、一定の周波数のレーダーを照射し、その反射によって対象を把握する方法。天候に左右されず、昼夜も関係なく計測が可能ですが、従来のレーダー衛星は大型で質量も大きいため、製造から打ち上げまでコストが莫大に膨れ上がります。

「これら双方のデメリットをかいくぐる、レーダー衛星の小型化に成功したのが、弊社の強みです。1m分解能(対象から1mの距離まで擬似的に迫れる識別能力)を持つ100kg以下のレーダー衛星の開発は世界初 です。これを、従来の約100分の1のコストで開発・製造できることは、人工衛星界において革命的なことだと自負しています」(市來さん)

この革命的な技術に、世界の投資家が注目しているようです。

 

世界の小型衛星開発企業、いわゆる競合と比べても、QPS研究所の衛星の優位性は抜きん出ている

ではなぜ、QPS研究所は画期的な人工衛星を開発できたのでしょうか。それは、この組織が20年以上も小型衛星の開発に心血を注いできた、日本随一の複合チームだから。

代表取締役を務める大西俊輔さんは、研究所所長の八坂哲雄さんの方に目をやりつつ、こう説明します。

「QPS研究所のルーツは、1995年にさかのぼります。その年、日本における宇宙工学の第一人者であり、1994年に九州大学工学部教授に就任した現所長である八坂先生が、九州大学で50cm級の小型衛星の開発を始めました」(大西さん)

50cmというサイズは、実用の人工衛星としてはとても小さく、大学の研究や実験で扱うには逆に大きくて、これまで扱われてこなかったサイズ。このサイズを扱うことが「後の成功」につながったといいます。この希少なサイズを開発することにした理由について、八坂哲雄さんご本人はこう言います。

「やっぱり、実験のための実験をしても仕方ないと思ったんですよ。やるのであれば、最初から実用化を想定しないと。小さいものを飛ばすのはそんなに難しいことじゃないでも、小さいものでは、その先に搭載される機能もかなり制限される。私が目指したのはただ衛星を宇宙に飛ばすだけでなく、その先に“なに”をやるか。だから、当時の実機の衛星を可能な限り最小化し、50cm/50kgクラスの衛星開発に注力しました」(八坂さん)

これにより、排熱処理など実用化に向けての課題が蓄えられ、その後の“技術革命”へと受け継がれていくことに……。

ここ九州に宇宙産業を根付かせたい

その後も、九州大学で小さな衛星の応用を進めていった八坂さんですが、2005年にあるアクションを起こします。九州大学の名誉教授である桜井晃さん、三菱重工株式会社のロケット開発者・舩越国弘さんらとともに、ここ九州でQPS研究所を創業したのです。

八坂さんは当時をこう振り返ります。

「九州には、せっかく種子島宇宙センターがあるのに、地場の企業に宇宙産業がまったく根付いていなかったんです。でも九州大学での研究を通じて手応えを感じていたから、このまま絶やしてしまうのはもったいないと思ってね。それで2000年頃から九州中を行脚して、200社ほどメーカーに声をかけて回ったんです。そうすると『宇宙産業、やってみたい!』『うちだったら、こう作れる!』と、どんどん手が挙がってね。うれしかったですよ。それで、儲からないかもしれないけど、いっちょやってみるかと(苦笑)。行脚した中小企業は、見た目は町工場でも、どこも技術力は高いし、なにより志があった。最終的には、20社ぐらいの協力を得られるようになり、小型衛星の開発を民間で進められるようになったわけです」(八坂さん)

なお協力企業20社は、久留米等北部九州に集中しています。久留米はブリヂストン創業の地で、周辺には関連する製造工場も多数あり、技術力が高いのが特徴。また、自動車部品の製造 に求められる精度は、宇宙に置き換えても通用するレベルのものが多く、北部九州にはその技術力が集積していたといいます。

 

QPS研究所の研究者たちが九州中を行脚し、パートナーシップを結んだ北部九州宇宙クラスター

こうして2005年から本格的に動きはじめた“九州版下町ロケット”プロジェクト。しかし、八坂さんは「正直言いますと、当初は大学や地場の企業をサポートして、技術を残せればいいという発想だったので、自分たちで衛星を打ち上げることまでは考えてなかった」と当時を振り返ります。この時、若手研究者とともに2018年現在も研究開発の第一線で毎日汗を流すことになろうとは、想像もしていなかったのです(後編につづく)。

PROFILE

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大西俊輔さん、市來敏光さん、八坂哲雄(研究所所長)さん

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Qラボ 研究員
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− 九州で、社会の第一線で活躍する人から学ぶしあわせのカタチ −

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