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【小倉織を再生した築城則子】35センチの幅に糸2300本の情熱

九州には、情熱を持つ人たちが沢山いる。そんな情熱に迫るQラボの連載。第4弾は、途絶えていた小倉織を再生した築城則子さん。美しいたて縞が特徴の小倉織。築城さんがつくるものは、わずか35センチの幅に2300本もの糸が並ぶといいます。小倉織を再生したキッカケや、その魅力についてお伺いしました。(撮影:今林大造・インタビュー:中村圭)

中村:まずは小倉織を復活させた経緯について教えてください。

築城:私は大学を辞めてから染織の道に入りました。しばらくは久米島で勉強した後自分でやってたんですが、織を始めて数年たった頃、勉強のために行った骨董店で、偶然手にしたのが小倉織の端切れだったんです。それがとても魅力的な布で、これはなんだろうと。不思議な生地で、木綿のようだけど木綿でない、絹でもない、滑らかな質感で。骨董店のご主人に聞いてみると、「これは小倉織で袴の生地だと」いうことを教えてくれたんです。それが出会いでした。

中村:小倉織は、途絶えてから結構長かったんですか?

築城:ええ。徳川家康が使っていたという記録が残ってますので、江戸初期から昭和初期まではあったのは間違い無いんですが、もう50年くらいは途絶えてましたね。

中村:なるほど、じゃあ自分で織られたときには師匠がいたわけじゃないんですね?

築城:全く誰も教えてくれる人はいませんでした。師匠どころか、作ってる人もいませんでしたから。残ってるのは生地だけ。そういう状態でした。

中村:それをヒントにこう織ればいいんじゃ無いかというのを、自分で編み出されたと。

築城:はい。福岡に工業試験場というものがありまして、その当時、そこで組織分解してもらって、どのくらいの糸でどの密度というのは分かったんです。ただ昔のものと全く同じものを作ったら、現在においては、強いけど、素朴すぎると感じました。そこで私はさらに糸を細くして、多くするということをやったんです。なので、こういう伝統のものを復元と言うんですが、私は再生と呼んでいます。もう一度、生み出したという意味です。

(築城さんの仕事場は豊かな自然の中にある)

 

伝統工芸は風土と気質でできあがる

中村:小倉織の特徴について教えていただいて、よろしいですか?

築城:まず、素材が木綿ですね。それで、経(たて)糸が非常に多くて、緯(よこ)糸が見えないくらいの、高密度な経糸なので生地がしっかりしています。だから文様としてたて縞になるんです。

中村:小倉織のたて縞しか作れない特徴というのは、この地域の特徴に根差したものだったりするのでしょうか。

築城:そうですね。私がよく言ってるのは、伝統工芸は風土と気質のどちらもが兼ね備わったものがビッタリきて伝統になってるということです。そういう意味では、小倉は、木綿が採れた土地であること、高温多湿な日本の中では珍しくカラッとした気候であることがあります。しかも、普通の織物だと経(たて)と緯(よこ)が1対1で交わるんですけども、小倉織は経(たて)を2倍から3倍にするくらい多くします。織りにくい織物なんですね。

でもその織りにくい中で、自分たちの袴にぴったりの生地を作るには、こうしないといけない、ということを守っていた。その土地の人たちの、気質がすごい込められてると思います経糸をへらした方が、織物って楽なんです。簡単にする方法はいくらでもある。でもそうすると、粗くなって魅力がなくなるんです。不器用なほど頑なですよね。


(大量の糸が並ぶ様子は迫力がある)

 

最後にハサミを入れた瞬間ゼロにする

中村:築城さんはどういう時に情熱を持って仕事に打ち込めますか?

築城:私、基本的に過去の仕事に興味がないんです。もう昨日までしてた仕事が終わったら、さようならって感じで、考えていますので、情熱的に取り組むという意味では毎回気持ちを新たにしています。織機って終わった時に、ハサミを入れるんです。経(たて)糸を切るんですよ。それまで経(たて)糸をデザインし準備をし、織るという工程の最後にハサミを入れる。その瞬間に終わったっていう。

その作業工程が私には合ってて、その時に、もう一瞬でゼロに戻るんです。じゃあ次に行こうっていう。そういう意味できちんと自分の中で終われます。前の作品とおさらばして、じゃあ次に。という意味で毎回情熱を込めて、新鮮にやれてるかなと思いますね。

中村:最初に小倉織をただ復元するのではなく再生したとおっしゃってました。仕事も同じことをやるというより、一回ハサミを入れて終わりにしてから、新しい要素を取り入れたいと思ってやられてるということでしょうか?

築城:そうですね。やってる内容は同じなんですよ。いつも。縞の文様を考えるとか、糸をずっと染め続けてますので。ある種ルーティーンは当たり前ですからね。でも、ルーティーンがあって、その上で新しいことをやり続けなきゃならないわけじゃないですか。その時に、気持ちをゼロ地点に帰ってもう1回始めるということは必要なことだと思ってます。


(後ろから見た織り機の様子)

 

自然の偉大さに包まれてる幸せ

中村:なるほど。ありがとうございます。このコロナ禍で意識が変わった人も多いと思うのですが、築城さんの中でコロナ前後で心境の変化などありますか?

築城:そうですね。私たちの仕事って現代の中では、信じられないくらい速度で、100年くらい前と同じ速度で仕事してると思うんですね。植物を採りに行って、その植物を煮出して色を得て、それで糸を染める。そしてやっと作業を始めます。今だと考えられないような速度なんです。ですので、他の方より私はずっと織りをやってる40年近い日々で、きっと教えられてることは簡単に進まない、きちんと歩みを守らなければならない。

今回のコロナの中でさらに思ったのは、物を作っている、それをお渡しする、という活動が、いかに大切なことであるかです。今までできてたことができない。人と会えない。その根源的な人と人との関わりの中での、物を介したりすることも含めて、大切な時間だったということを改めて思いました。

ただそういう時にでも、凄いなと思ったのが、どんなに私たち人間にいろんなことがあっても自然は変わりなく、自然の営みを繰り返してくれてることでした。いつも庭で花が咲き、実がなり、葉が落ちていく。これをずっと今までと同じように守ってくれてる。この自然の偉大さに包まれてることが幸せなんだなと思いました。「国破れて山河あり、城春にして草木深し」という言葉はやっぱり凄いなと。それは中国で争いに敗れた人たちの言葉ですけど、私たちも厳しい状況下ですし、そういう中で全体として人恋しさというものが募るのは、人との繋がりという意味で、とても大切に感じます。

中村:自然の偉大さと聞いて、ここも凄い自然豊かなところだなと思うんですけど、やっぱり創作の場所としてここを選ばれた理由もそんなところにあるのでしょうか?

築城:草木染めする材料も、植物がいっぱいあるってことと、水が井戸水、山水、水道水っていうのがあって、いろいろ試したりもできるというのがあります。そして、とにかくこの里山に住んでる方々が素晴らしくて、人間の営みを教えられてます。雑草が生えないように綺麗にされてるとか。やっぱり大事に生きることをしているという生活を学ばせてもらってます。


(仕事場の裏にも壮大な自然が広がっている)

 

未来を託せるように今を生きる

中村:最後の質問なのですが、私たち九州博報堂は「地域の情熱たちと、未来をつくる」というのを、会社の目標にしています。築城さんはこの場所からどんな未来を作りたいと考えてますか?

築城:未来は、私は作りたいというよりも、未来を託せるように、自分が恥ずかしくないように今を生きたいです。次の人たちを信じるだけですよね。未来というのは。その方たちが絶対やってくれると思ってるんですよ。小倉織も、うちの工房で勉強した人が作り手になっていってますので、若い30代、40代の作家が出てきています。そういう意味では私は託したと思ってます。だから、未来を作るというよりは、未来を信じられるように、今を渡す自分が、きちんとしないとなと思っています。

再生させた小倉織を、毎回新鮮な気持ちでつくり続ける。きちんと今を生き、次の人たちへ未来を託すために。地域の情熱、築城さんの挑戦は続く。

中村 圭

TEXT BY

コピーライター
中村 圭

2007年、博報堂入社。TBWA\HAKUHODO、ID局などを経て、2016年より九州支社、2020年九州博報堂へ。受賞歴は、カンヌ金賞、アドフェストグランプリ、ACCゴールド、福岡広告協会賞ゴールド、鹿児島広告賞グランプリなど。九州の自然を愛し、酒を愛し、熱い人々を愛す。

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